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act.7昏迷ノスタルジア<120>
「お前らは変わんないでいてやって。あいつ、周りの態度が変わるのにびびってっから」
明日集まるメンバーは例え冬耶から葵のことを聞かされても、葵への愛情は揺るがないとは思う。でも絶対とは言い切れない。だから京介はせめてこの友人達だけでも、変わらず葵の傍に居てほしいと願った。
「当たり前じゃん。何年友達やってると思ってるの?」
「……だな。余計なこと言ったわ」
小突いてくる七瀬に対し、京介は素直に詫びた。
クラスでは京介としか喋ることの出来なかった状態の葵を、彼らは知っている。それでも根気よく付き合い、親しくなってくれたのだ。とっくに葵の全てを受け入れる覚悟は出来ているようだ。
「今年こそは葵ちゃんの誕生日会、できるかな?みんなでさ」
「それはどうだろな?わかんねぇ」
この十年、葵が頑なに拒み続けていることだ。ケーキや贈り物はおろか、祝いの言葉すら受け入れようとしない。
毎年ベッドの中に丸まって一日をやり過ごそうとする葵。一昨年から強制的に外へ連れ出すことには成功したが、それでも出来るだけ笑顔を見せないように努めるのは変わらない。聖と爽の時にしてやったようなオーソドックスな誕生日会もひどく嫌がる予感はする。
「一応さ、毎年用意してるんだよ、プレゼント」
「へぇ、そうなんだ?」
「そ、綾と二人で選んでるの。渡せるようになったらぜーんぶまとめてあげるんだから」
いつ来るとも分からないその日のために彼らが準備し続けていたことなど、京介は全く知らなかった。
「七、ケーキまで買ってるんだよ」
「葵ちゃんがしない分、代わりに七が願い事して、ろうそくの火消してあげてるの」
「お前が食べたいだけじゃねぇの、それ」
京介が指摘すれば、七瀬は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。それもあるのだろう。でも二人が葵のことをいかに大切に思ってくれているかは十分伝わった。
妙なところで頑固で意地っ張りな幼馴染にはいい加減折れてほしい。葵が生まれてきたことに感謝したい人間は沢山いるのだから。いつまでも母親の呪いに囚われるなと言いたい。
今年はどんなプレゼントを用意しようか相談し始めた二人を横目に、京介は自身のスラックスのポケットに手を忍ばせた。
指先に触れたのは冷たい金属の感触。一昨年の誕生日、葵にあげたブレスレットだ。一ノ瀬が盗んだペンケースの中に保管されていたそれは、幸樹の手を介し京介の元に帰ってきた。
失くしたことをひどく悲しんでいたのだから、もう一度葵に渡せば喜ぶに違いない。けれど、一ノ瀬が触れた可能性のあるものを渡す気になれず、かといって思い出の品には変わりないものを捨てることもできず、こうして持ち歩いてしまっている。
行き場を失ったブレスレットは、葵への想いと重なる。中途半端な状態から脱し、早く蹴りをつけたい。
でも誕生日の問題と同じく、葵はきっとまだ京介の愛情を受け入れられない。どんなに好きだと囁いても、抱き締めても、キスをしても、葵には未だに伝わらないのだから。
愛されるべきでないと刷り込んだ存在が憎くて堪らない。これほど長く強く葵を縛り続けることが出来て、彼女はあの世でさぞ満足していることだろう。
京介は怒りを押し殺すように、ブレスレットをきつく握り締めた。
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