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act.7昏迷ノスタルジア<125>
* * * * * *
朝、顔を合わせた友人たちは揃いも揃って疲れた顔をしていた。自分も覇気のない顔をしている自覚はある。無理もない。今日の午後のための準備に皆追われていたのだ。
でもようやく葵の身に何があったのかを知ることが出来る。その事実はずっと靄がかかっていたようだった忍の心を楽にもしてくれた。葵の顔をしばらくぶりに見ることも楽しみで仕方ない。
「葵くん、僕らが行くこと喜んでくれてるみたい」
冬耶から送られてきたのだろう。奈央は携帯に一枚の写真を表示させて見せてきた。テーブルの上に並べられている透明の包み。中身は恐らくクッキーのようだ。リボンで口を閉じられているからプレゼントらしい。
「葵の手作りか?」
「うん、昨日一生懸命作ってたんだって」
全員揃って同じものを貰うのは癪だが、素直に嬉しいと感じる。
「手作りは嫌い、だったな?貰ってやろうか?」
「絶対にあげない」
潔癖症の櫻をからかえば、彼は冷たく言い返してきた。葵からの贈り物なら別なのだろう。
元々寮の食堂を利用することは少なかったが、一ノ瀬の事件以降、学園の様子を把握するために積極的に顔を出すようにしていた。だから朝食の時間もこうして彼らと連れ立って移動する。
葵が火曜以降ずっと欠席を続けている話はそれなりに広まってはいるらしい。だがその理由に関しては今の所、一ノ瀬の不在と関連づけるような妙な憶測は飛んでいない。
幸か不幸か、葵がよく体調を崩すことが周囲に疑いを抱かせずに済んでいる。
「上野はどうするつもりだ?」
「顔は出すって言ってたよ。冬耶さんに直々に釘刺されたんだって」
奈央は幸樹の様子を忍以上に掴んでいるらしい。本来会長である忍の役割ではあると思うが、あの自分勝手な男を相手にするのはいささか疲れる。前年度から生徒会活動を共に行なっている間柄の奈央に任せるほうが、よほど楽だ。
三人共通の話題といえば、葵と生徒会のことぐらいしかない。周囲に生徒が行き交う中で迂闊に葵の話は口に出せないから、必然的に朝食の間、仕事の話ばかりが交わされることになる。
「試験が終わったら、一年のオリエンに、体育祭か。休む暇もないな」
一年生だけの宿泊行事に関してはほとんど準備を終えているが、問題は来月行われる体育祭。生徒会とは別に組まれた実行委員が主体で動いているとはいえ、やることは山のようにある。
「そういえば、二人は団長問題どうするの?もうとっくに応援団の練習は始まってるみたいだけど」
「やらない」
奈央の問い掛けに即答したのは櫻だった。毎年伝統のように生徒会の会長、副会長が二つに分かれた組を率いるのが習わしになっているのだが、忍も、そして櫻もそんなガラではない。櫻にいたってはそもそも体育祭なんて汗臭い行事自体、嫌いなのだ。参加することすら嫌がっている。
忍はお飾りの団長を演じるぐらいなら、とは思っていたが、相棒の櫻が実行委員や応援団の団員たちからのオファーを頑なに断り続けるせいで、体育祭まで一ヶ月となった今でもこの問題は解決していない。
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