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act.7昏迷ノスタルジア<129>

買い物を終え、爽は携帯で西名家へのルートを表示させようとしたが、幸樹は何も見ずにどんどん進んでいってしまう。 「上野先輩、道覚えてるんですか?」 それほど何度も行ったことがあるのかと尋ねれば、彼は前回門に葵への贈り物を掛けるために向かったのが初めての訪問だったのだという。一回行けば大体分かると言われると、道のりを調べた行動が恥ずかしくなって、爽は慌てて携帯をポケットに仕舞った。 「聖、残念やったな。何が何でも来ると思ったけど」 「まぁ急だったんで。聖も葵先輩と勉強したがってましたけど、仕方ないっす」 彼は爽が隣に追いついたのを合図に、不在の相棒の話題を出してきた。それに対しごく普通の回答をしたつもりが、幸樹は不意に足を止め、そして怪訝そうにこちらを見つめてくる。 「……あれ?言わんかったっけ?」 「なんかすごい嫌な予感するんですけど。何を、ですか?」 幸樹の顔つきで、彼が大事なことを言い忘れているのだとは察しがついた。聞くのが怖い。が、聞かないわけにはいかない。 案の定、彼は勉強会とは名ばかりで、別の目的がある集まりだと告げてきた。 「葵先輩の話?」 「そ、西名さんが全部話すって」 「……それ、絶対怒りますよ、聖」 ただの試験勉強だと思っていたから、彼は悩んだ末に仕事を優先させた。けれど、そんな話なら聖はきっとどうにか都合をつけてやってきたはずだ。 「爽があとで話してやってよ」 へらへらと幸樹は笑うけれど、そういう話ではない。もちろん今日聞いた話は全て聖に教えてやるつもりだ。でもそれでは到底納得できないだろう。 怒り、悔しがる兄の姿を思い浮かべた爽は、一体彼をどうやって宥めたらいいのか考え、溜め息をついた。 「どんな話、なんだろ」 前回家を訪れた際、葵が西名家で育ったことは教えてもらった。家族のアルバムを見て、途中から現れた葵の成長過程を見ることもできた。でも肝心の“なぜ”がわからない。 なぜ葵が西名家で暮らすことになったのか。 知りたいとは思っていた。葵が自身の誕生日についての話を避ける素振りを見せたことも、きっと今日分かるはず。 けれど、いざその時が近づくとなると、正直なところ怖いという感情が強くなる。 「上野先輩は、どこまで知ってるんですか?」 「どこまでって、うーん、まぁなんとなく色々」 京介と親しい彼は、爽よりは大分多くのことを把握しているらしい。曖昧な回答ではあるが、それは伝わった。

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