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act.7昏迷ノスタルジア<130>

西名家の隣にある藤沢家。その邸宅は今日もどこか陰鬱な雰囲気を纏っているように感じた。蔦の絡んだ大きな門に視線をやりながら、爽はこの家で葵が過ごしてきた日々のことを思い浮かべる。 玄関を開けてくれたのは冬耶で、通されたリビングには綾瀬と七瀬の姿しかなかった。制服姿の彼らは授業が終わるなり、京介と共に真っ直ぐにここへやってきたらしい。 ほどなくして、階段を降りてくる音がした。だが、その足音は妙に遅い。その理由は葵の姿を見てすぐにわかった。 左の足首にサポーターを巻き、都古に支えられながらおぼつかない足取りで歩いている。怪我をしているのだろう。それに数日ぶりの葵は、少しやつれたように見える。 「葵先輩!」 思わずソファから立ち上がり、駆け寄ろうとするが、爽は一歩遅かった。 「葵ちゃん、会いたかった」 弾丸のように飛び出した七瀬が爽よりも先に葵に抱きついてしまう。彼もあの日以来葵に会っていなかったようだ。葵も嬉しそうに七瀬を抱き締め返すから、爽は一度広げかけた腕を下ろし、再びソファに座り直した。 「爽くん」 だが、落ち込む爽を葵から呼び寄せてくれる。両腕を広げて、おいでと誘ってくれるのだ。隣の都古は相変わらず鋭い目つきは向けてくるものの、今回は邪魔をする気はないらしい。葵の背中を支える役目だけを静かにこなしている。 「葵先輩、会いたかった」 「うん、僕も。ごめんね、いっぱい心配かけちゃったよね」 元々小柄な体は、腕を回すとやはり少し細くなった気がする。葵がどれほど恐ろしい目に遭い、傷ついたかが分かった。 彼を守りたい。もう二度とこんな思いをさせたくない。何があったかすら正確なことを知らされていないのに、そんな思いだけが強く爽の中に湧き上がってくる。 「聖くんは?お仕事?」 「はい、どうしても外せなくて。でも、伝言預かってきました」 少しだけ寂しそうな顔をする葵の耳元に、爽は唇を寄せた。 「“大好き”って」 聖の思いを伝えると、葵はくすぐったそうな笑顔を見せてくれた。 「ちなみに、俺は聖よりも葵先輩のこと大好きなので」 張り合う一言を付け加えると、葵はますます笑顔を深める。 ずっとこうして笑っていてほしい。そのために爽に何が出来るのだろう。 冬耶からの話を受け止め切れるのかも、爽には不安だった。でも初めて出来た聖以外の大切な存在。葵を通して、仲良くなりたいと思える人たちにも出会うことが出来た。 「葵先輩、俺、がんばります」 「うん、試験がんばろうね。爽くんは初めての中間試験だもんね」 なかなか噛み合わない会話も、出会った時のことを思い出して懐かしくなる。そんなところも好きだから仕方ない。 やる気を表すようにぎゅっと両手を握ってこちらを見上げてくる葵に、爽は思わず吹き出しそうになるのを堪えながら、もう一度彼の体を抱き締めた。

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