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act.7昏迷ノスタルジア<132>
学園生活の中でも、ここまでの大人数が揃うことなど滅多にない。だから持ち寄ってくれたお菓子を並べ、誰がどの味を食べるかで始めたじゃんけんになかなか決着がつかないことすら、葵には楽しくて仕方がなかった。
前回聖と爽の誕生日会には来なかった都古が、今日は葵の傍に居て、一応は輪の中に入っているのも嬉しいことのひとつ。会話に入ることはしないが、比較的穏やかな表情でくつろいでいるだけで十分だ。
「このまんま勉強せずに終わっちゃいそうだな」
リビングスペースではなく、一続きになったダイニングにいた冬耶から声がかかり、ようやく葵も今日の目的を思い出した。彼らはこうして雑談だけをしにわざわざ来てくれたわけではない。葵の試験勉強に付き合うためにやってきたのだ。
だが、葵が早速準備してきた勉強道具を広げようとすると、冬耶にそれを止められた。普通の勉強、ではなく、試験対策のための模擬試験をしようと提案されたのだ。
「模擬、試験?」
「そ。北条たちがね、去年の試験内容もとに用意してくれたんだって。その結果見て、あーちゃんが躓いてそうなところを教えてもらった方が効率いいだろ?」
まさか自分のためにそんなことまでしてくれているとは思いもしなかった。
「あ、ちゃう、俺は何も全く」
上級生のくくりで四人に視線を投げかければ、幸樹は慌てて手を振って否定してくる。ということは、忍と櫻、奈央が動いてくれたようだ。ただシンプルな礼を口にすることしか出来ない葵に、三人は大したことはないと言い切った。
試験は葵だけでなく、都古も七瀬も一緒に受けるらしい。補習に引っかかりがちな二人のことも、先輩たちは面倒を見るつもりのようだ。
「あれ、京ちゃんは?」
「俺は必要ねぇよ。それなりでいいから」
我関せず、な顔をする京介も仲間に引き入れようとすれば、彼はあっさりと断ってきた。
京介は授業をサボってばかりのくせに試験は淡々とこなしている。追試や補習に引っかかることは不思議とない。彼のそうした要領の良さに、やはり冬耶と兄弟なのだと思わせる。
綾瀬は同級生とはいえ、葵に勉強を教えてくれる側。成績のいい彼もまた、模擬試験に臨むつもりはないらしい。
試験は集中できるよう、陽平の書斎で行うことになった。そこで仕事をしながら、陽平が試験監督という役割を演じてくれるらしい。
てっきり皆と賑やかに過ごせると思っていた葵にとって、別室に引き離されるのは正直寂しさを感じてしまうが、わざわざ葵のために用意してくれた先輩たちの優しさは素直に嬉しくて堪らない。
「なんか新鮮だな、葵がテスト受けてるところ見られるなんて」
陽平がそう言って笑いかけてくる。葵たちが同じ空間に居ることを仕事の邪魔だなんて思わず、むしろ言葉通り楽しそうだ。
「がんばれよ」
応援するように肩をぽんと叩かれ、葵は大きく頷いた。
「葵ちゃんやばい、一問目から分かんないんだけど」
「こら、そこ、お喋りしない」
本当に監督らしく七瀬を注意する陽平に、思わず笑いが溢れてしまう。思いの外、都古が真剣な顔をして机に向かっているのも葵にとっては微笑ましい。
──がんばろう。
大好きな先輩たちが作ってくれた問題に向き合いながら、葵は強くペンを握り締めた。
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