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act.7昏迷ノスタルジア<133>

* * * * * * 葵が集中し始めたことを知らせる連絡が陽平から入り、冬耶はダイニングテーブルの席を立って来客が集う場所に移動する。葵が抜けたその空間は、不思議な緊張感に包まれていた。 「改めて、集まってくれてありがとう」 この計画が少し強引だった自覚はある。特に忍たち三人には負担をかけて悪かったとも思う。けれど、こうして力を貸してくれたおかげで、今この場を設けることが出来た。だから冬耶は一番に彼らへの感謝を口にした。 「今から話すことは、あーちゃん本人にはまだ知らないフリをしていてほしい。心の準備が出来ていないし、あーちゃん自身把握していない事実も含まれるから。それは約束して」 「……本当に聞いても大丈夫なんですか?」 冬耶がこの場の前提条件を口にすると、奈央が不安げに声を上げた。優しい彼は、葵の意に沿わないことは避けたいのだろう。 「俺もあーちゃんの心が整うまで待とうと思ったけど、そうしない理由は大きく二つある。一つは、不用意にあーちゃんが傷つくような事態を今後は徹底的に避けたいから」 冬耶がそう口にすれば、湖での出来事を思い出したのか、幸樹の表情が陰る。そして櫻もまた、連休中葵に愛らしい格好をさせてデートに出掛け、そして取り乱させた側だ。二人をここで責めるつもりはない。もう二度と、あんなことが起きなければそれでいい。 「二つ目は、君たちを巻き込みかねないほど状況が悪化したから。うちだけの問題では済まなくなってきた。だから君たちにも知る権利があるし、力を貸して欲しい。そう考えた」 冬耶の計画に反対をしていた京介も、この点においては納得の姿勢を見せている。葵を狙う週刊誌の記者が、都古や櫻までターゲットにし始めたことを教えた時、彼は怒りを露わにしていた。 得体の知れない事態に巻き込まれる可能性を冬耶に示唆されても、この場に居る顔ぶれは大きな動揺は見せない。それぞれ、分からないなりにも覚悟は決めてきたのだろう。 「まず、あーちゃんの両親の話からしていこうか。父親は藤沢馨。藤沢グループの社長さん。名前聞いたことある人はいるんじゃないかな?」 冬耶が問いかければ、藤沢家と並ぶ家柄の忍や、それなりの大企業の子息である奈央は頷きを返してきた。ただ、馨の名前は知らなくとも、藤沢グループの存在は皆が当然のように認識しているはず。葵がその家の生まれだという事実に、少なからず動揺が広がったようだ。 「で、母親は女優の大倉エレナ」 「……あれ、その人って確かもう」 「うん、亡くなってるよ。十年ぐらい前かな」 思わず反応した爽の言葉を引き取って続きを告げてやれば、場の空気は一段と重くなった。

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