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act.7昏迷ノスタルジア<143>

「爽くんも交えて、三人での撮影も楽しそうだけどね。今聖くんがソロで色んな仕事受けたがっているってリエさんに聞いたから。それじゃあって思って」 聖の戸惑いをよそに、馨はごく自然に会話を進めていく。名字は単なる偶然で、聖の考えすぎだったのかと思わせるほど。 「あの、アイちゃんの写真、見せてもらえませんか?」 元々この場で馨に頼もうと思っていたことだ。どうやって自然に尋ねるかを悩んでいたから、こうして話の流れで切り出せたのはありがたい。 けれど、馨が傍に控えていた秘書に渡されたタブレットを操作し始めると、心臓がばくばくと嫌な音を立て始める。もしも予想通りそこに葵の姿があったなら。自分はどうしたらいいのだろう。 馨が葵にとって良い存在なのかどうかを判断する材料がない今、葵と知り合いであることを打ち明けることは危険かもしれない。かといって、故意に隠して後で馨にバレた時も厄介だ。 「はい、これ。可愛いでしょう?随分昔の写真だけどね」 差し出されたタブレットを受け取り、恐る恐る画面を覗き込むと、そこには赤いダリアに囲まれた幼い子供の姿があった。今よりも白に近くはあるがこの金髪も、蜂蜜色の瞳も見覚えがある。間違いなく聖の大好きな人物。 「私の息子、葵」 馨は初めて子供の性別も、本名も明かしてきた。どう返していいか分からず、聖はただ画面を通してこちらに微笑みかける葵だけを見つめる。 聖たちの誕生日会の日、西名家で見せてもらったアルバム。それを見て、葵がこの写真とそう変わらない年齢の時から西名家で育ってきたことは知っていた。 だから実の家族と離別する何かがあったのだと予想していたのだが、父親だという馨は今聖の目の前にいる。葵を自慢する口ぶりには愛情も感じられる。 何か事情があって離れて暮らしているだけで、親子仲は悪くないのだろうか。でもそれなら葵の口から家族の話が一度も出ないのはおかしい。西名家での生活を隠してきた理由も分からない。 「聖くんは、今の葵とどっちが好き?」 「……え?」 聖がぐるぐると悩み続ける間に、馨はごく当たり前のようにそんなことを尋ねてきた。何のためらいもなく話題に出してきたということは、全て聖の考えすぎなのだろうか。 「リエさんから聖くんが通っている高校の話聞いていたから。葵と一緒でしょう?学校で見たことない?」 「あぁ、はい。あります」 同じ高校に通っていると把握されていれば、下手に誤魔化すのは得策ではない。それに、馨の口ぶりでは、聖が葵と親しい仲だということは知らないようだ。 前菜を優雅に口元へ運ぶ姿を見つめていると、馨は聖の視線に気がつき柔らかく微笑んでくる。そこに聖への悪意は全く感じられない。 会うのはこれが三回目だが、彼は一貫して聖に対して好意的に振舞ってくる。それなりの地位の人であるはずなのに偉ぶらず、聖とごく普通に会話をしてくれるところも印象はいい。

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