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act.7昏迷ノスタルジア<144>
「馨さんは、葵さんと今一緒に暮らしてるんですか?」
前回馨は海外にいるあいだ、子供とは離れて暮らしていると話していた。だからこんな質問をしてみてもおかしくはないだろう。いつもの“先輩”呼びも封じた。
「ううん、今はまだ知人に預かってもらったままだよ。もうそろそろ一緒になるけどね」
淀みなく答える様子で、やはりただ仕事の都合で葵を西名家に預けていただけなのかと思わせる。でも聖の中ではまだ不安がくすぶっていた。
馨の隙のない言動も、妖しささえ感じる美しさも、どこか危険な香りがする。聖よりは慎重な爽ならばきっと深入りせずに引いていたかもしれない。冬耶たちにアドバイスを求めようと言い出していた気もする。
そこまで考えて、聖は一つの可能性を思いつく。撮影時に二人の性格の違いまですぐに見抜いた馨のことだ。だから聖を選んだのではないか、と。
「魚はあまり好きじゃなかった?」
「あ、いえ、美味しいです」
手が止まっていることに気が付いた馨に申し訳なさそうに声を掛けられ、聖は慌ててナイフを動かした。美味しいとは答えたものの、シャンパンソースが掛かった白身魚からはなぜか味を感じない。
「ギャラリー作ることとか、俺と撮影するみたいな話って、葵さんは知ってるんですか?」
深く息をついて心を落ち着けた聖は、少しずつ核心に近づくことに決めた。手始めにそんな質問を投げかけてみる。葵は知らない気がする。その予想通り、馨は緩く首を横に振った。
「まだ話していないよ」
「帰国してから葵さんとは会ってるんですか?」
「ううん、それもまだ」
回答はするが、その理由までには触れない。馨の答え方にはやはりどこか違和感を覚える。
「ねぇ、聖くんは葵と話したことある?学年が違うから接点はないかな?」
「話したことは、あります」
質問者は馨に移り変わった。嘘をつくわけでもなく、過度に情報を与えるわけでもない形で返答して、聖は理解した。おそらく馨のあの返事の仕方も聖の意図と同じだったのだろう。
「聖くんの目から見て、葵ってどんな子?」
次の問いはイエスかノーかで答えられない分、難しい。葵のことなら聖の言葉でいくらでも表現できるが、父親相手となると難しいものがある。だから聖は一度頭の中でシンプルで当たり障りのない回答を組み立て、口にした。
「成績が優秀で、生徒会の活動に積極的に参加してます」
「それは事実であって、聖くんの感じたことではないでしょう?私は聖くんの目から見た今の葵を知りたい」
翡翠の色をした瞳が今までになく強く聖を捉える。変わらない笑みを携えているというのに、この人には抗えないと思わせる不思議な恐ろしさがあった。
聖はしばらく思案したあと、彼の目を見据えて自分の想いを口にする。弱さを見せた途端きっと彼に飲み込まれる。そう感じたからだ。
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