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act.7昏迷ノスタルジア<145>
「優しくて、温かい人です。面倒見も良くて、でも、どこか抜けてて目が離せません」
捻くれた双子を、葵は初めからすんなりと受け入れてくれた。可愛らしい容姿に惹かれたのは事実だけれど、躊躇いなく歩み寄ってくれた葵の優しさが聖の心を大きく揺さぶった。
しっかりしているようで、危なっかしい。強がりで、素直に頼ってくれない一面もある。だからこそ、傍に居て支えたいと思わせるのだ。
馨は聖の気持ちを聞いて愉快そうに口元を歪めた。
「聖くんは葵が好き?」
「はい」
怯むことなく即答すれば、馨はますます笑みを深める。顔のパーツはどこか葵との血の繋がりを感じさせるものの、彼のこの笑顔が与える印象は葵のものとは大きく違うと感じた。
「そう。私はね、こっちの葵が好き」
もう画面は閉じられていたけれど、タブレットを指先でトンと叩いた馨が、幼い頃の葵を示したいことぐらい分かる。
あの写真の葵は、まるで作り物のように感じるほど綺麗に微笑んでいたけれど、悲しげにも見えた。可愛いとは感じるが、周囲を簡単に巻き込む無邪気な笑顔の葵のほうがよほどいいと聖は思う。
「聖くんもきっと好きになるよ」
「俺は、今の葵さんが好きです」
馨の指す過去の葵が何を示すのかが分からないが、それでも聖が好きなのは今の葵。真っ向から言い返されればさすがに気分を悪くするかと感じたものの、馨は相変わらず機嫌が良さそうに見えた。
「じゃあ、葵と撮影はしたくない?私がカメラを向けたらこうなっちゃうけど」
「葵さんは撮影自体、知らないんですよね?葵さんが望まないことはしたくないです」
「望まない、ってどうして決めつけるの?」
ただ直感的に思ったことだった。写真の中の葵は幸せそうに見えなかったからだ。でもそれを口にすることは躊躇われた。葵の気持ちまでは確かに聖には分からない。
黙り込んだ聖に、馨は満足げにワイングラスを傾けた。その様子で、彼が葵にとって良い存在ではない予感が強くなる。
葵と馨との関係が分かると思っていたのに、ますます複雑な謎を授けられた気分だ。自分がどう立ち回るべきかも見失っていた。
「私のこと、葵に伝えていいよ。パパが会いたがってるって」
まるで聖の心を読んだかのように、馨はそう告げてくる。許可を与える言い回しだが、命令のように感じた。
「どうして会わないんですか?」
「どうしてだと思う?」
小首を傾げて髪を揺らす仕草さえ艶やかだ。聖をからかうようにはぐらかす笑顔もそう。
「聞いてごらん、葵に」
もう一度馨は促してきた。これは罠だと、そう感じる。きっと葵に父親の話題を出してはいけないのだ。なぜか、なんてこの際どうでもいい。ただでさえ今傷ついている葵を、さらに悲しませる可能性があることをしたくなどない。
「俺からは、聞きません」
「気になるでしょう?」
誘いに乗らない聖に、馨は焦れたような視線を送ってくる。けれど頑なに首を振った。すると馨は大袈裟なぐらい溜め息をついてみせた。
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