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act.7昏迷ノスタルジア<150>

* * * * * * 試験問題を作ることもだが、それを採点してやる行為も櫻にとっては初めての経験だった。赤ペンで丸をつけてやれば嬉しそうに表情を綻ばせ、バツをつければしょんぼりと落ち込んでみせる。そんな葵を見るのは愉快だったし、何より今までと変わらぬ無邪気な様子は櫻を安心させた。 「まぁ悪くないんじゃない?これだけ出来てたら問題ないでしょ」 櫻が教えてやるまでもないとさえ感じる。それに、葵が間違えたのはいわゆるひっかけ問題の部類。よく読んだとて判断が難しいような選択肢ばかり用意したのだから、相当苦戦しただろう。 「実際、ここまで意地の悪い問題は出ないだろうし」 「……やっぱり、ちょっと意地悪ですよね、これ」 見事に引っかかった葵は悔しくもあったのだろう。櫻の言葉で少し恨めしそうな目を向けてきた。 「なに、文句あるの?優しい先輩が自分の時間割いて作ってあげた問題に」 「ないです、いっぱい感謝してます」 「よろしい」 慌てて取り繕う葵の頬を摘めば、笑顔が返ってきた。こんなやりとりすら、随分懐かしく感じる。 葵が一ノ瀬に何をされたのか、伝え聞いてはいる。早く戻ってきてほしい反面、心の回復に時間が掛かることも覚悟できていた。でもきっとこの家で、西名家や都古が全力でケアに努めたのだろう。思いのほか顔色も良かったし、無理に元気を装っている風でもない。 「他の教科も平気だったんでしょ?」 「平気、ではなかったです。やっぱりいつもよりはダメだと思います」 「全部難易度高めに作ってるし、安心していいと思うけどね」 葵向けの模擬試験のレベルを上げたのは、三人で決めたこと。一時的に落ち込ませるかもしれないが、実際の試験より易しいものを作っても仕方がないと意見が一致したのだ。 「葵ちゃんよりも、あっちが危機感持ったほうがいい気がするよ」 櫻がソファスペースに目をやれば、葵もそれにつられて視線を向かわせ、そして同意を示すような頷きを返してきた。 櫻たちはまだ足首が痛む様子の葵を気遣ってダイニングテーブルにいるが、ソファには一緒に模擬試験を受けさせた都古と七瀬がいる。 都古は忍と奈央、二人がかりで今回の試験範囲の最低限の知識を叩き込まれている最中だが眠そうに欠伸を繰り返しているし、七瀬に至っては指導役の綾瀬とべたべたとくっつき始めている。

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