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act.7昏迷ノスタルジア<151>

「でも嬉しいです。みゃーちゃんのことも心配してもらって」 葵から真っ直ぐな目を向けられると、冬耶からの命令でやむなくとは言いづらい。それも、葵の話を聞くための交換条件だったなんて、打ち明けられるわけもない。 「全教科追試って事態は避けられるといいね」 「……ほんとに」 都古本人も、全くやる気がないわけではないようだ。葵から離れ、忍と奈央に挟まれている状況を甘んじて受け入れているのがその証拠だ。 基礎学力のない都古を正攻法で育てるのは諦めた。どう考えても無謀な挑戦である。だから赤点を避けられそうな科目を選んで、試験に出そうな単語や公式を徹底的に暗記させることにしたのだ。 櫻が今こうして葵の勉強相手という立ち位置を得られたのは、櫻が担当する英語だけは都古には望みが薄いという判断に至ったためだ。 「そうだ、葵ちゃんさ、学ラン着ない?」 「学ラン、ですか?あ、体育祭の?」 「そう。僕よりも似合わなそうだけど、可愛いだろうし、皆の士気も上がるって」 冬耶からの話は未だ櫻の心に重く留まっているけれど、葵の前では極力普段の調子でいなくてはいけない。だからといって苛めていい理由にはならないが、こんなコミュニケーションしか櫻には取れないのだ。だから自分の責務を葵に押し付けてみようとする。 櫻がこの任務を嫌がっていることは葵だって承知していた。だから即座に拒みはしなかったものの、複雑そうな顔で櫻に向き合ってくる。 「あの、自分で言うのもなんなんですけど」 「うん、何?」 「団長って体育祭の象徴、じゃないですか。多分、程遠いと思うんです」 葵の言う通り、体育は見学がデフォルトの葵はおそらく体育祭もまともに参加できないはずだ。でもそれは櫻も同じ。 「僕も怪我したくないから体育出てないし、程遠い度合いで言ったら似たようなもんだよ」 突き指の危険が高い球技はもちろん、それ以外のスポーツも手を負傷する可能性は秘めている。元々の運動嫌いはさておき、家業を理由にほとんど参加を避けてきた身だ。 証拠として自分でも惚れ惚れするぐらい綺麗な手を差し出せば、葵はその手をぎゅっと握ってきた。そのまま指を絡めるようにして手を繋ぐ。戯れのような触れ合いだけれど、葵の体温を感じられるだけで自分の表情が和らぐのが分かる。 「団長は副会長のお仕事ですよ」 「じゃあ葵ちゃんもなれば?副会長。元々その話あったわけだし」 二年生の役員が葵一人であることや、来年度葵が会長職をスムーズに継ぐために、副会長を櫻と葵、二人で行う案が出たことはあった。結局櫻が何も仕事をしなくなることを危惧され棄却されたものの、今の状態を考えれば副会長と書記を兼務させることは悪くない話だと思う。

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