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act.7昏迷ノスタルジア<152>

「そんなにやりたくないですか?僕は櫻先輩の団長姿、見てみたかったですけど」 「そう?笑うつもり?」 「違います。真っ白の学ラン、櫻先輩は似合いそうだから」 葵が櫻を茶化したり、からかったりするわけもない。本心でそう思っているのだろう。 きっと葵は頭の中で、去年の副会長を思い浮かべている気がする。太陽の光を浴びて眩しいぐらいに輝く白い詰襟を身に纏う遥の姿。凛々しかったことは認める。そして櫻のその姿を見たいなんて、好きな子に言われれば悪い気はしない。 「相良さんとどっちが似合う?」 「え、えぇ……それは、だって、櫻先輩のはまだ見ていないからなんとも言えないです」 二人とも似合う、なんてはぐらかすのではなく、真正直に答えるところも葵らしい。こうなったら遥よりも櫻のほうがいいと、意地でも言わせたくなる気持ちが湧き上がってくる。 「団長やったら惚れてくれる?」 「惚れ……んー、えっと、惚れ直す?と思います」 「何それ。もう惚れてる前提なの?可愛い」 そこに恋愛感情が込められていないことぐらい分かっている。それでも少しはにかみながら微笑んでくる葵が愛しくて仕方ない。 思わず頬を両手で包んで唇を寄せれば、すっかりその存在を忘れていた正面の人物の邪魔が入った。 「はい、そこまで。おしゃべりはその辺にしてそろそろ勉強しようね、君たち」 大きな手を櫻と葵を阻むように伸ばして微笑むのは、冬耶だった。一切会話に入らず、コーヒーを飲みながら雑誌に目を通していたから全く視界に入っていなかった。だが、こちらの声にはずっと耳を傾けていたのだろう。 あの話の後だ。櫻が葵に対して妙な態度を取らないかも警戒していた気がする。信用がないことには腹が立つが、止むを得ないとは思う。 「どの教科聞いても大丈夫ですか?」 冬耶からの忠告で真面目に勉強に戻る葵がもどかしい。もっと言葉を交わして、触れていたかった。 「いいよ。一年前の話だから、忘れてるとこあるかもしれないけど」 「それでもすごいです。僕はその時の試験範囲でいつも手一杯なので。次の試験の時はもう前のことなんて忘れちゃいます」 こうして純粋な尊敬の眼差しを向けられるのは悪くない。月島家の人間を見返すために音楽だけでなく勉学にもひたすら励んできたが、そのプライドの高さがこんな風に誰かの、それも好意を抱く相手の役に立つだなんて思いもしなかった。 葵と距離を縮めることに苦戦していた日々が馬鹿らしくもなる。こんなに簡単なことだったなんて。

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