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act.7昏迷ノスタルジア<154>

* * * * * * 都古の勉強をみてやる。そのミッションはまず都古を机に向かわせるところから始まると覚悟していたが、彼は思いの外あっさりと教わる姿勢を見せた。ゴールデンウィークのように、補習のせいで葵と離れ離れになるような事態は彼も避けたいのかもしれない。 絶対に試験に出るであろう部分だけに絞って解説を行い、暗記をさせれば、彼の反応は悪くない。勉強が出来ないと言われ続けていたが、記憶力は良いほうなのだと感じる。 ただ義務教育期間の学習が足りなかっただけで、地頭が悪いわけでは決してないのだろう。それは奈央だけではなく、共に勉強を教えていた忍も同意見のようだ。 元々は絶対に無理だと言い切っていたくせに、追試を免れるぐらいは出来るかもしれないと、段々とそんなことを言い始めてきた。 「試験まで時間はないけど、とにかくこれを反復して覚えれば大丈夫だと思う。頑張って」 奈央がそう締めくくれば、終始眠そうにはしつつも懸命についてきた都古はホッとしたように頷いた。 突拍子もない冬耶の提案に振り回されはしたが、こうして都古の新しい一面を知られて良かったと素直に思う。 それに、冬耶からの話を聞いて葵といつも通りの顔をして向き合える自信はなかった。だからこうして他の役目に集中していられる時間があるのは正直助かった。 おそらく忍も、だろう。彼はあくまで平然を装ってはいるが、その心中を察すると奈央まで胸が苦しくなる。 それまでの生活を一変させるほど、忍は葵に惚れ込んでいるのだ。自身の名が葵にとってトラウマだと教えられて、動揺しないわけがない。 「あまり憐れんだ目を向けるな。余計惨めになる」 「……ごめん、そんなつもりは」 無意識に忍を見つめていたようだ。本人から苦笑いで指摘され、奈央は慌てて謝罪を口にする。 「俺も少し葵と話してくる。このままでは櫻ばかり美味しい思いをしている気がするからな」 それ以上深掘りせず、忍は先に席を立った都古の後を追いかけるように葵のいるダイニングスペースに向かってしまった。 早速葵に声を掛け、会話を始めた忍は本当に普段と変わらない様子に見える。動揺を隠すのが下手な奈央とは大違いだ。だが、あれはきっと強がりだ。友人として彼を励ます言葉を思いつけない自分が情けない。 黙々とテーブルの上の片付けを始めれば、この会の主催者が奈央の元へとやってきた。 「あっち窮屈になっちゃったから、避難させて」 冬耶の言う通り、葵の周囲は元々勉強を教えていた櫻に加え、都古や忍、そして綾瀬や七瀬まで集まって大分賑やかなことになっていた。でもあの空間が嫌になってこちらにやってきたわけではないことぐらい分かっている。 「何かしらさ、話して帰ってやってよ。きっと寂しがるから」 「……はい、すみません、大丈夫です」 この家を訪れた時も奈央は葵にまともな言葉を掛けてやれなかった。込み上げてくる涙を必死でこらえ、葵の頭を撫でてやるのが精一杯だ。 試験についての会話も、忍や櫻に混じってほんの少し口を挟んだくらい。冬耶の指摘通り、葵と会話らしい会話が出来ていない。

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