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act.7昏迷ノスタルジア<174>
* * * * * *
葵と顔を合わせるのは二ヶ月ぶりだった。出会ってから今まで、これほど長い期間離れたことはない。
普通の電話ではなく顔が見える形での通話を提案したのは遥だが、少しだけ後悔もしている。葵の様子が把握出来るのは良いけれど、すぐそこに見えるのに触れてやれないのがこれほど辛いとは。
『なんだか少し、緊張する』
冬耶が部屋から出て行ったのだろう。葵はパソコンに向き合いながら、はにかんだ笑顔を見せてきた。さっきまで涙を零していた目元はほんのりと赤くなっている。
「こんな形の再会でごめんな。もっと楽しい話だけしてやりたかったけど」
『ううん、大丈夫。ずっと話さなきゃって思ってたから。遥さんも居てくれてよかった』
葵にとっては初めて聞く話ばかりで驚いただろう。ショックも受けたと思う。けれど、葵は自分なりに事実を飲み込んでみせた。冬耶から葵が自らカウンセリングを受けたがり、着々と成長しているとは聞いていたけれど、正直これほどとは思わなかった。
でも必ず負荷は掛かっている。遥が抱き締めながらゆっくりと会話を進めれば、葵はきっと溜め込んでいる感情を吐き出せるだろうが、今は生憎画面越しでの逢瀬。下手に踏み込んで泣かせてしまっても、宥めてやることが出来ない。
だから遥は先ほどの会話を続けることはしなかった。これからはただ葵が笑顔で居続けられる話題だけを選びたい。
「俺に話したいこといっぱいあるんだって?なんでもいいよ。沢山聞かせて」
遥に話したいことをメモしている、なんて可愛い行動を聞かされれば、一体どんな話が飛び出すのか楽しみで仕方ない。葵のここ二ヶ月の生活はほとんど冬耶から教えられていたものの、葵の口から葵の言葉で聞くのは全くの別物だ。
でも葵は限りある時間の中で何から話すべきか、考えあぐねているらしい。手帳を開いて難しい顔で悩み始めてしまった。だから遥から誘導してやることにした。
「新しい友達出来たって聞いたよ」
『うん!一年生のね、絹川聖くんと爽くん。双子でモデルさんでね、すっごくかっこいいんだよ』
生意気で都古と喧嘩ばかりしているらしいと聞いていたが、葵からの評価は高いようだ。まるで自分のことのように双子を自慢する葵の姿は微笑ましい。
『そうだ、二人はね、早乙女先輩と従兄弟なんだって』
「へぇ早乙女の?」
それは初耳だ。
早乙女とはなぜか同じクラスになることが多く、出席番号も近いことから何かと縁があった。本にしか興味のない彼はいい意味で学園に染まらず、人との距離感もほどよい。
だからどうしても葵を一人で待たせなければいけない時は、彼が図書委員として入り浸る図書室を選んでいた。その選択は正しかったと思う。早乙女は葵に過度に構うことはなく、けれど時々葵好みの本を仕入れるぐらいの親切は働いてくれた。おかしな様子の生徒が葵に近づこうとした時は、それとなく追い払ってもくれていたようだ。
特別な依頼をしたわけではない。でも遥が何よりも大事にする存在を図書室に預けた意味、それを早乙女なりに解釈し、応えてくれていたのだと思う。
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