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act.7昏迷ノスタルジア<175>
「そういえば入れ違いで親戚が入学するって言ってたな。それが二人のことだったんだ」
『そうみたい。仲良しだったよ。一緒に早乙女先輩のバイト先に行って、お買い物したんだ』
彼のさり気ない面倒見の良さは、従兄弟だという双子のおかげなのだろうか。卒業した今になって、彼の性格のルーツに触れるのは不思議な気分だ。それも葵を通じて知るなんて。
「帰国したら、俺もその早乙女のバイト先連れてってよ。デートしに行こ」
遥が誘えば、葵は全力で頷いてきた。“デート”というワードに照れたのか、少し頬を染めるのが可愛らしい。今目の前にいたら間違いなく抱き締めてキスしてやるのに。
「なぁ、葵ちゃん。俺にもして」
『……え?』
「さっき冬耶とはしてただろ。俺にもしてほしい」
葵が困るのは百も承知で、つい、そんなことをねだってしまう。あんな光景、在学中には嫌というほど見せつけられてきたのだが、葵不足な状態では正直嫉妬した。
はっきり言わずとも、何を求められているのかは理解したようだ。葵は抱えたクッションを更に強く抱き締めて、どうしたらいいのかオロオロとしている。
「じゃあ、それも帰国したらにしようか」
葵を苛めるのが趣味なわけではない。ただこうして本当に再会した時の楽しみを増やしておきたいだけ。
「いっぱいする?」
『……うん、したい』
スピーカー越しでも、葵の声が震えたのが分かる。決して嫌がっているわけではない。むしろその逆だろう。冬耶のようにお子様なキスだけで満足はできない。彼の目を盗んで、じっくりと教え込んできたのだ。
遥自身は葵とキスより先の行為には及んでいないが、京介や都古がそれ以上の戯れに及んでいることは知っている。彼らの下手な誤魔化しに騙されるのは盲目な冬耶ぐらいだろう。
ひたすら純粋に葵を想う親友が哀れで、遥は己にブレーキをかけているものの、もう少しだけ先に進みたい気持ちはある。一ノ瀬や若葉が葵に触れたと知れば尚更だ。
いや、いっそ葵を恋人として奪い去ってしまおうか。
冬耶が兄としてではなく男としてアプローチするのを待ってやる気でいたが、そろそろ良い頃合いなのかもしれない。遥が動き出すぐらいのきっかけがなければ、あの男が本気を出すこともないような気もする。
「話したいこともそうだけどさ、行きたいところとかやりたいこと、考えておきな。全部叶えるから」
帰国した時の楽しみは自分だけでなく、葵にもきちんと与えてやりたい。だが、遥の期待とは裏腹に、葵の表情は少しずつ曇っていく。
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