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act.7昏迷ノスタルジア<179>
「可愛い子は捕まえておかないと、他に持ってかれちゃうよ」
ルイの言うことはもっともだ。でも生徒会からのちょっかいは京介と都古が弾き返すと踏んでいたし、その二人も互いを牽制しあってなかなか進展できずにいるだろうと確信していた。だから一時的にでも葵から離れることが出来た。
遥の読みは今の所当たっているようだ。でも、誤算だったのは一ノ瀬のこと。外部からの干渉は、均衡を崩す元になる。
「持ってかれないように、釘刺しに帰るんだよ」
特に遥にとって京介が一番気掛かりであった。彼ともそれなりに長い付き合いだ。性格はよく分かっている。あまり表には出さないよう努めているようだが、葵への独占欲も執着も人一倍強い。葵を抱きたくて仕方ないことも知っていた。
元々限界が来ていたところで、一ノ瀬の件だ。若葉まで葵に触れたと分かれば、彼は冷静ではいられないだろう。
京介がきちんと手順を踏み、同意の上で葵を抱くのなら遥も文句はない。でも強引な形で奪うのを許せるほど、心が広いわけではない。
それに、冬耶の想いを踏み躙る結果に陥ることも避けてやりたい。彼ら兄弟の関係が壊れれば、西名家自体のバランスも崩れ、馨に付け入る隙を与えかねない。
「ライバルがいるんだ?」
「困ったことに、どんどん増えてるんだよな」
初めはただ、冬耶と京介の兄弟だけだったはずだ。でも冬耶は葵の心が癒えるまでは兄としての愛情しか注ぐつもりはないし、京介はすっかり拗らせて妙な関係に陥ってしまっている。そのあいだに続々と葵を狙う人物が増えていった。
こんなことなら、あの兄弟に気遣いなんてせず、早い段階でかっさらってしまえばよかったとも思ってしまう。
「全然理解はできないけど、ハルのこと応援はしてるから。いつかアオイちゃん連れておいでよ」
葵にこの街の景色を直接見せてやる、そんな日が来るのならば、それは遥にとっても喜ばしいことだ。葵の気に入りそうな場所はもういくつも見つけている。
「いつか、な」
遥が答えれば、ルイはヒラヒラと手を振って出て行った。ようやく部屋に静寂が訪れる。
あともう少しだけ我慢すれば、葵に会える。癒してやれる。だからどうかそれまでは何事も起こらず、葵が平穏でいられるよう、遥は祈るのだった。
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