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act.7昏迷ノスタルジア<200>
先に葵へ恋をしたのはきっと冬耶のほうだと思う。
京介も一目見て可愛いとは感じた気がするし、それまで付き合いのあった同年代の友人たちとは全く異なる空気を纏う葵のことをもっと知りたいとも感じた。でもその感情が何かまでは、分からなかった。
二つ上の兄は年齢以上に大人びていて、葵に一目惚れしたのだとはっきり口にしていたはずだ。ストレートに好きだと伝え、仲良くなりたいと口説いてもいたと思う。今は兄としての顔しか見せないが、当時は随分積極的にアプローチしていた。
京介はその姿を見るのが面白くなくて、冬耶が葵の手を握ったり、抱き締めたりするのを見つけては、自分も後を追うように葵に触れ始めた。
段々と心を開き、控えめながらも笑顔を見せてくれるようになってからは、はっきりと自覚した。自分にとって葵が特別な存在で、これを“恋”と呼ぶのだと。
「葵、訂正するわ。あいつのいいとこ、一つだけあった」
「パパの良いところ?なに?」
「隣に越してきたこと」
馨があの場所を拠点に選ばなければ、葵と出会うこともなかった。そこだけは唯一感謝してやってもいいかもしれない。
「どうしよう、京ちゃん。もう泣かないようにしようって思ったのに」
泣き腫らした目で登校したくないのだろう。そうして目に涙を溜めながら必死に堪えている姿も、京介にとっては可愛くて仕方ない。
思わず唇を重ねれば、葵は受け入れるように瞼を伏せた。そんな仕草をされたら止まれそうもない。
でも勢いに任せるキスでは、葵をさらに泣かせることになる。だからまずは触れるだけ。柔らかな感触は何度味わっても飽きることはない。
「ん……きょ、ちゃん」
名を呼ぶ声音からはわずかに熱を感じる。そこでようやく淡い桃色をした唇に舌を滑り込ませると、葵は京介にしがみつく手に力を込めた。
小ぶりな舌は京介から逃げるように奥へ引っ込んでしまうから、自然とそれを追いかけるためにキスは激しいものになっていく。捕まえた舌を吸い上げ、痛みを感じない程度に甘噛みしてやると、腕の中の体が連動したように震えた。
このあと葵を冬耶の元に帰さなくてはいけない。だからこれ以上の触れ合いは避けたほうがいい。まだかろうじて冷静な自分が呼びかけてくるが、音の漏れない部屋を選んだ時点で、こうなることを求めていた。
キスを続けながら、葵の体をゆっくりとソファに押し倒せば、さすがに葵からは戸惑ったような視線が投げかけられた。
ベッドで行う“おまじない”ならば葵はほとんど抵抗を見せない。都古と二人で触れた時も、一ノ瀬の痕跡を消すという一応の名目はあった。でも今は違う。
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