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act.7昏迷ノスタルジア<201>
「葵、触っていい?」
言い訳なしに尋ねれば、葵はますます困った表情になった。でも拒む台詞の代わりに、思わぬことを確認してくる。
「それって……好き、だから?」
「なんだよ、急に覚醒した?」
お子様なはずの葵に直球で問われると、こちらが動揺させられる番だ。
どうやら葵は連休中、忍から教わったらしい。“好きだから触れたい”、それは自然な感情なのだと。そんなことはごく当たり前の前提だと思っていた。抱き締めることも、キスも、好意の証だと教えてきたつもりなのだから。
忍の言葉が心に響いたのは気に食わないが、葵からの拒絶を恐れ“おまじない”と騙し続けた京介には文句を言う筋合いはないだろう。むしろ、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「そう、好きだから触りたい」
葵の瞳が揺れるのが分かる。だからもう一度、深く唇を重ねて葵の意識を溶かしていく。
「あのクソ野郎に触られたところ、まだ他にもあるよな?葵、上書きさせて」
さすがにこのまま抱くつもりはない。冬耶や都古はすぐ上の階にいるのだ。バレるに決まっている。だから京介は、心残りだったことを口にした。
都古と二人掛かりで葵の体に触れたけれど、唯一、手付かずの場所があった。パジャマ越しに腰をなぞれば、葵も何を指しているか思い当たったらしい。
そこを一ノ瀬の指と舌で暴かれただけでなく、玩具を埋め込まれたと幸樹からは聞かされていた。あの状況では、それで済んだことを幸運だと思うべきなのかもしれないが、許せるわけもない。
葵は、恥ずかしい、と消え入りそうな声で訴えてきたが、それは拒否ではなかった。
今夜は照れる葵の姿を楽しんで苛めるつもりはない。だから京介は目を瞑り続けることを提案した。それなら葵も少しは照れずに身を任せられるだろうと思ってのこと。でも全部隠せなんて言ってはいない。
「……なぁ、それはさすがに隠れすぎじゃね?」
ソファにかかっていたブランケットで顔を覆ってしまった葵には物申したくなる。赤くなる葵の表情ぐらいは楽しみたい。それにこれではキスも出来ない。
でも、ブランケットを握る葵の手に力が込められているのを見てしまえば、無理に剥がすのは得策ではないと分かる。
「まぁいいや。じゃあそうやって大人しくしとけ」
布に包まった葵の頭が縦に動いたことを見届け、京介はパジャマに手を掛ける。
これを着せてやったであろう兄は、今京介の手で脱がされているだなんて夢にも思っていないだろう。ずるい手を使って葵を穢していることも、彼は知らない。
家族で過ごすことの多い場での行為は初めてだ。冬耶の影がチラつくのはそのせいだろうか。
罪悪感を振り払うように葵の半身を覆う布を引き下ろしていく。膝を閉じるというささやかな抵抗はあったものの、素肌を晒すのにはそれほど時間は掛からなかった。
薄れてきたとはいえ、葵の肌にはまだ一ノ瀬が残した痕が浮かんでいる。早く元通りの綺麗な肌に戻してやりたい。
「ぁ……ん、ん…っ」
閉じた膝に口付け、そして内腿を割り開きながら唇を上らせていく。柔らかな肌からほのかに甘い石鹸の香りが漂う。同じものを使っているはずなのに、なぜこれほど京介を高ぶらせるのか分からない。
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