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act.7昏迷ノスタルジア<205>
「なんでそんなことするの」
「いや、なんでって言われても。したいから?」
「なんで、したいの」
真っ赤な顔で問い詰めてくる葵は、聞き分けのない子供のようだ。本人は真剣なのだろうが、改まって尋ねられるとは思わなくて笑いそうになってしまう。
「好きだから、じゃねぇの?」
忍の言葉を拝借して適当にあしらうと、葵は分からないと言いたげに眉をひそめてしまった。
「触りたい、って気持ちはちょっと分かる気がしたのに」
「へぇ、お前も触りたいとか思うわけ?」
葵はその呟きを京介に聞かすつもりはなさそうだったが、スルーすることは出来ない。
「ぎゅってしたいとかは思う」
「あぁ、その程度の話な。……いや、お前さ、触らせられたんだよな?」
京介ははっきり覚えている。好き放題触られるだけでなく、葵からも触れたことがあると言っていた。
「誰の触ったんだっけ?ちゃんと聞いてなかったよな、そういや」
今度は京介が追及する番だ。葵は首を振って答えるのを拒んだけれど、陥落させるのは簡単だ。
顔を覗き込み、もう一度強く尋ねると、葵は双子の名前を口にした。やはりあの誕生日のデートで、葵は大分濃いスキンシップを強いられたようだ。
聖と爽。二人のことを嫌っているわけではない。生意気だけれど、人懐っこい一面を見せるようになって、接しやすくはなったと思う。でも、京介ですら経験したことのない行為を双子が先に行ったなんて許せそうにない。
「じゃあ次、期待してるから」
「え、それって」
京介が何をリクエストしたかはさすがに鈍い葵でも分かったらしい。困った顔で見つめてくるが、嫌とは言わなかった。
でも問題は次にこんな時間を作れるのが、いつになるかが分からないことだ。
ひとまず冬耶と会話をして、試験が終わるまでは生徒会フロアに移さず現状維持でいくことにはなった。でもただ先延ばしただけで、根本的な解決ではない。
「はぁ……全然足りねぇな」
葵を抱き締めて、本音を吐露する。葵と二人でいることが当たり前だった時期が懐かしい。
葵を抱けば、この関係の何かが変わるだろうか。いや、変わってくれなくては困る。覚悟する意味がない。
そろそろ服を着たいと葵に訴えられるまで、京介は腕の中の存在を独占できたわずかな時間の余韻に浸った。
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