1098 / 1636
act.7昏迷ノスタルジア<209>
* * * * * *
日曜の夜だからか、日付が変わる頃の寮は妙な静けさに包まれている。間も無く試験が始まるというのも、深夜に出歩く生徒の姿が見えない要因の一つかもしれない。
幸樹にとっては都合のいい状況だった。人気のない二年生のフロアを訪れた幸樹は、目的の部屋の合鍵を取り出した。
無言で中に立ち入れば、共有スペースのリビング部分に居たこの部屋の住人たちは突然の侵入者に目を見開いた。その反応に構わず、土足のまま標的に近付く。
「お前の部屋どっち?」
「は?何しに来たんだよ。役員だからって、何してもいいわけじゃねぇだろ」
幸樹が見下ろした生徒は、すぐに威勢良く噛み付いてくる。
耳にぶらさがるピアスと、口元に残る派手なかさぶた。少し前に都古と喧嘩を繰り広げた主犯格である彼、尾崎はさすがに幸樹と対峙しても怯えた様子は見せない。
尾崎の言い分は確かにある意味では正しい。役員が権力を行使して勝手に一般生徒の部屋に立ち入ることは許される行為ではない。だが、それは何の理由もない場合だ。幸樹は目の前の彼と話すべき用があった。
「もっかい聞く。部屋は?ここで話したいっちゅーならそれでもええけど」
幸樹の圧に押され、渋々と言った様子ではあるが、尾崎はソファから立ち上がる。リビングを挟む形で配置された個室の一つ。中はお世辞にも綺麗とは言えないが、別に構わない。
幸樹は先導する尾崎の背中を蹴り飛ばし、その体を物の散乱する床にねじ伏せた。
「……ッ、おい、てめぇ何す……」
「何って、セックス。欲求不満なんやろ?相手したるわ」
尾崎は咄嗟に受身はとったものの、幸樹に伸し掛られればロクに抵抗も出来ない。ガタイも、実戦経験も違う。仲間とつるんでしか悪い遊びに興じられない男を一人弄ぶことなど、幸樹にとっては楽な仕事だった。
「冗談だろ」
「大丈夫、俺上手よ。ケツ初めてでもちゃんとイカせたるわ。安心しい」
そう言いながら尾崎の背を押さえつけ、スウェットのズボンに手を掛けると、幸樹が本気だと感じたのか、抵抗に必死さが増した。
「ふざけんなっ、クソ」
「こういうの好きなんやろ?都古ちゃんにしたかったことやん。望んだ立場とは逆やけどな。ま、細かいことは気にすんな」
都古の名を出せば、尾崎の顔色が変わった。
ともだちにシェアしよう!

