1099 / 1636

act.7昏迷ノスタルジア<210>

明日から葵に合わせて、都古も登校する。いくら都古に打ちのめされ大怪我を負わされたとはいえ、また襲わないとも限らない。それに爽から聞いた“クスリ”を使う計画も見過ごすわけにはいかなかった。 都古が簡単にやられるとは思わないが、血の気の多い彼のことだ。絡まれれば、また処分を食らうほど暴れるかもしれない。そうなると日中葵に付き添い、守ってやる存在がいなくなる。 尾崎は葵にも仲間とともに手を出そうとしていたと聞いている。都古が居なくなれば、今度は葵をターゲットにしかねない。だから二人が登校する前に、危険分子は徹底的に潰しておきたかった。 抱くことはあっても、抱かれる経験などないのだろう。剥き出しにした臀部にローションをぶち撒け、転がっていたペンをその間に突き立ててやると、面白いぐらいに尾崎は狼狽えてみせた。 「……本気、かよ」 そんなわけはない。なぜ好き好んでこんな男を犯さなければならないのか。素肌に触れたくもない。だが、彼にネタバラシをするのはまだ早い。幸樹は尾崎の情けない姿を写真に収めながら、もう一つの目的を口にした。 「あー、すまん。なんかいまいち勃つ気せえへんな。どないしよ」 「じゃあやめろよっ、退けって」 「でもほら、据え膳食わぬはとか言うやん?せっかく準備出来てんのに、もったいないしなぁ」 暴れる尾崎の体を押さえ込んだまま、幸樹は彼の必死の訴えをのらりくらりと躱していく。部屋の扉は開けたままだから当然同室者にこちらの様子は伝わっているはずだが、幸樹相手に友人を助けることも出来ないのだろう。邪魔が入ることもない。 「なんかさ、その気になるもん、持ってない?」 「何だよ、それ」 「んーだから、エッチな気分になるやつ。遊ぶ時に使ってるって聞いたんやけど」 「ハッ、それが目的かよ」 幸樹の狙いが“クスリ”そのものだと受け取ったらしい。尾崎は逃れられると期待して、誰がその持ち主かを教えてくれる。 「三年の福田に聞けよ。あいつが持ってる」 「ふーん、そっか。じゃあ呼ぼっと」 「は!?あいつんとこ行ってヤれよ」 どうやら未里に幸樹を押し付けられると勘違いしたようだ。幸樹が携帯を操作し始めたのを見て、尾崎はより一層焦り出す。この姿を他人に見られたくもないのだろう。 でも元々ターゲットは尾崎ではない。未里を呼び出す建前として使いたかっただけ。スニーカーを履いたままの足で彼の体を踏みつけながら、未里の到着を待った。 未里の連絡先を手に入れるのには特に苦労しなかった。ここへ来るよう指示するメッセージで幸樹は名乗らなかったし、返事も来なかったが、間違いなく彼はやってくると確信していた。 その予想通り、それほど時間を空けずに未里は現れた。

ともだちにシェアしよう!