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act.7昏迷ノスタルジア<211>

「何か御用ですか、上野さん」 若葉を相手にしているぐらいだからそれなりに肝は座っているらしい。この部屋に幸樹がいることも、尾崎の醜い姿にも驚きはしたようだが、比較的落ち着いた様子で尋ねてくる。 「夜遅くにすまんな。俺がこの子抱けそうな気分になるような、いいもん持ってるって聞いたからさ」 「……何の話か分かりません」 「お前いつも持ち歩いてんだろ、とぼけんなよ」 仮にも生徒会の役員である幸樹相手だ。未里が素直に吐くとは思えなかったが、そのために尾崎を利用したかった。その思惑通り、尾崎は幸樹の足元でいい仕事をしてくれている。黙れと言いたげに未里が尾崎を睨みつけるが、今更だろう。 「あぁ、別にこれは生徒会役員として聞いてるんやない。俺個人が興味持ってるだけやから」 停学などの処分を下すつもりはない。そう告げれば、未里は幸樹の真意を探るような視線を送ってくる。 「上野さんなら僕に聞かなくても、いくらでも手に入るんじゃないですか」 「せやな。けど、相当効きがいいって聞いたら気になるやん?俺が使ったことあるんは、多少体熱くなるぐらいのもんやったし」 幸樹が自身の使用経験を打ち明けると、未里の警戒が一段階弱まるのが分かる。この会話を証拠にしようとしても、幸樹だって無傷ではいられない。そう考えたようだ。 この行動は未里に伝えた通り、生徒会が許可したものではない。幸樹個人で動いていること。少なくともそれについては信じる気配を見せた。 「今は、持ってません」 「あぁそう、残念やな。今度回して。いくら?」 「売ってるわけじゃないです」 あくまで自分が利用する目的でしか使わない、未里はそう言った。もしそれが本当ならば、幸樹は彼の悪い遊びに関与する気はない。好きにすればいいと思う。でも幸樹の保護対象に危害が及ぶのならば話は別だ。 「じゃあ福田が持ってるもんで誰かがラリってセックスすることはないんやな?俺に売ってくれへんのに、こいつにあげるなんてこともせぇへんよな?今までも、これからも」 直接的に都古の名前は出さない。“こいつ”と言って尾崎の背を踏みにじれば、彼が執着して襲ったばかりの相手を指していることは、未里なら十分に理解できるだろう。 「……しません」 その言質だけとれれば十分だ。幸樹が目を配っている状況で、都古を襲う計画を実行するほど馬鹿ではないはずだ。 「残念やけど、それなら仕方ないな。ほな、勃ちそうもないし、行くわ」 幸樹がそう言って足を下ろすと途端に尾崎が逃げ出した。もう奴には用はない。でもあと一つ、未里には言っておかねばならないことがあった。 「福田が使ってるのって、茶色い瓶でさ、鼻から吸うタイプ?」 未里の口元がピクリと反応した。誤魔化すべきか否か、判断に困っているのだろう。でも尾崎がどこまで幸樹に話しているのかを把握出来ていない未里は、嘘をつくのは得策ではないと考えたようだ。ゆっくりと頷きが返ってくる。 「あぁ、そう。最近似たようなん校内で見つけてな。でも、福田のとはちゃうってことやんな?ちゃんと管理してるんやろ?」 「はい。別物だと、思います」 「それならええわ。扱いには気ぃつけてな」 幸樹の目を見据えて返答できたことは評価するが、声のわずかな震えまでは堪えられていなかった。幸樹がそれ以上追及しなかったことにも、あからさまに安堵の色を見せた。

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