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act.8月虹ワルツ<1>

まるで初等部や、中等部の頃に戻ったようだ。 一週間ぶりに教室の前に立った葵は、言い知れぬ緊張に襲われていた。葵以上に久しぶりの登校であるはずの都古は、何も言わず、ただ葵が自分の足で進むのを待っていてくれる。 少し間を空けてしまうと、教室は葵にとって入りづらい場所になってしまうのだ。 でも葵の横を通り過ぎるクラスメイトたちの態度は、あの頃とは随分変わった。 「おぉ、藤沢じゃん。久しぶりー。もう体調大丈夫なの?」 「治る前に風邪うつして貰えばよかった」 「試験受けたくないだけだろ。追試のほうがしんどいわ」 仲の良い友人同士のじゃれあいついでに、ごく自然に葵に声を掛けてくれる。“おはよう”と短い挨拶のみの生徒も多いけれど、もう葵はこの教室で存在を無視されたり、厄介者扱いされたりするわけではない。それが何より嬉しかった。 「やーーーっと来た!葵ちゃん、おはよ!」 そして葵を熱烈に迎え入れてくれたのは、背後から抱きついてきた親友。葵よりも小柄だけれど、いつだってパワフルで明るい彼は中等部からずっと葵を支えてくれる。 「おはよう、七ちゃん」 「で、おかえり」 「うん、ただいま」 顔を見合わせて笑い合えば、不安がじわじわと溶け出していく。 今朝冬耶と離れるのは寂しくて仕方なかったけれど、こうして勇気を出して戻って来られて良かったと噛み締める。それに、歓迎されたのは葵だけではなかった。 「え?みゃーちゃんを?」 「そう、貸して!」 朝礼の後、葵に頭を下げてきたのは体育祭の実行委員をやっている同級生だった。体育祭の目玉競技であるリレーの選手として都古にオファーをしてきたのだ。ずっと謹慎中だったため確保ができず、相当困っていたらしい。 なぜ都古へのオファーが葵にやってくるかは明白だ。都古が聞く耳を持たず、断ったに違いない。 「お前が足クソ速いのは分かってんだよ」 自分のことを話されているというのに、都古は全く興味なさそうにそっぽを向いたまま葵に引っ付いている。その態度に文句は言いながらも、どうしても戦力として都古を諦めきれないらしい。 「藤沢ちゃんもさ、烏山が活躍してるとこ見たいよな!?」 「うん、それはそうだけど」 都古のかっこいい姿は見てみたい。それに、学園ではどうしても浮いた存在の彼が体育祭で活躍すれば、きっと彼への偏見も薄くなる気がするのだ。 「ほら、見たいって言ってるじゃん。頼むからやってよ」 葵をダシにして、彼はもう一度都古に懇願し始めた。本当に困っているようだ。これほどお願いされても了承してもらえない彼が可哀想になってくる。

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