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act.8月虹ワルツ<9>
「そんなに強引な感じだったんですね」
葵も冬耶に招かれた仲間ではある。だから冬耶の様子が想像出来たのかもしれない。
「でもすごく感謝してるよ。こうして普通の学園生活を楽しめるようになったし、それに……」
葵と出会えた、そう言いかけてあまりにもストレート過ぎる台詞を即座に飲み込んだ。隣に座る葵からは続きを促すような視線を投げかけられるが、取り消すように首を横に振ればそれ以上追及されることはなかった。
「葵くんは生徒会に入って良かったって思う?」
「はい!はじめは少し大変でしたけど、後悔したことはありません」
正規の選挙で役員になった奈央とは違い、葵は特殊な経緯で参入してきた。奈央は歓迎したけれど、共に活動に勤しんでいた仲間の中には、葵を快く思わなかった生徒がいたのも事実。
依怙贔屓と受け取られることを本人も覚悟はしていたようだが、仲間内にまで腫れ物のように扱われる環境は例え冬耶や遥が傍に居たとて辛かっただろうと思う。
だから葵がはっきりと言い切ってくれて安堵した。
「あのタイミングで役員になっていなかったら、奈央さんと出会うのも遅くなっちゃってましたし」
葵がさらりと言ってのけた言葉は、先ほど奈央が隠した本音と似通ったものだった。そこで奈央は気が付いた。
出会いに感謝することなど、友人同士でもおかしな話ではない。それを躊躇ったということは、葵への好意の種類が一般的な先輩後輩の枠以上のものである証拠だ。
「候補って試験の成績だけで選ぶんですか?聖くんと爽くんは役員になりたいって言ってくれてますけど、やっぱり成績が一定以上じゃないとダメ、なんですかね」
葵は膨らみきった恋心の存在と葛藤する奈央をよそに、会話を進めていく。
葵にとっては、次期役員の候補者として誰が選ばれるのかは大いに気になることだろう。親しい聖と爽が役員になってくれたのなら、心強くも感じるはずだ。
「成績はあくまで指標の一つだよ」
華やかに見えて、生徒会の仕事は地味な作業も多い。いくら特権があるとはいえ、ある意味学園に奉仕するような生活を送れるかも重要な資質だ。生徒を代表する組織として人心を掌握するキャラクターや、話術を求められることもある。
後者はともかく、前者に関して、現役員である忍や櫻、幸樹が条件を満たしているかというと、答えは否だと思う。
「僕も二人には役員になってほしいと考えてるけど、あくまで平等に判断しないとね」
「……そうですね」
葵自身が苦しんだ分、二人を積極的に招くことで彼らが叩かれる事態は避けたいのだろう。ただでさえ、彼らは入学当初の生意気で挑発的な態度が尾を引いている。
生徒会相手には人懐っこい一面を見せるようになってきたものの、一般生徒の中ではまだ暗黙のルールを破って葵にアプローチしている不届き者、という印象が強いようだ。
彼らが葵のためにも懸命に取り組んでいる生徒会の活動も、媚を売っている、という穿った見方をされているらしい。
「二人ならきっと大丈夫。周りも認めてくれるようになるよ」
そのためには、葵が彼らと引き合わせたという小太郎の存在がキーになると奈央は考えている。だが、それを口にするのはまだ早い。
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