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act.8月虹ワルツ<22>

* * * * * * 京介の様子がおかしいと気付いたのは夕食時。カウンターからトレイを受け取る時や、椅子に座るときにわずかに顔をしかめていた。痛みを堪えるような表情。葵が櫻の部屋に行くことになっても、口を挟むどころかホッとした様子で一足先に部屋に戻ってしまった。 どこかに怪我をしているのは間違いない。朝も昼休みもそんな様子はなかったのだから、午後に何かあったということも予測はついた。気にならないと言えば嘘になる。彼が誰かと揉めるときはいつも葵が関連しているからだ。 部屋に戻ると、そこには濡れた髪をタオルで覆う京介の姿があった。リビングのソファにだらしなく転がる姿はいつも通りだが、きちんと服を着込んでいるところに違和感を覚える。 「あれ、もうお風呂入ったの?」 葵はいつも夜更かしをする彼が寝支度を整えるスピードに驚いたようだったが、都古は違う。暑がりの部類に入る彼は、風呂上がりは上裸で過ごすことがほとんど。彼が傷を負った箇所がその布で隠された部分であることを暗に示していた。 「お前も先入ったら?つーか、早く寝たら?」 「でも、勉強しなきゃ」 「一週間昼寝ばっかしてたんだから、もう眠いんだろ。無理すんな」 近寄ってきた葵に対し、京介は意地の悪い台詞を混ぜつつも気遣う様子を見せた。確かに、葵は久々の登校で少し疲れた顔をしている。 都古もそれは同じだった。今危険人物として認識しているのは馨と若葉。馨はともかく、若葉は授業中であってもお構いなしに教室に乗り込んできそうな人物だとは聞かされてきた。だからいつもの居眠りはやめ、常に気を張った状態で葵を見守っていた。 幸い今日は何事もなかったけれど、こんな日々がこれから毎日続くのかと思うと、いっそこちらから若葉を締めに向かったほうがいいのかもしれないと考えてしまう。周囲から釘を刺されてはいるが、大人しく待ち構えているだけの状態は耐え難い。 京介のように早くに入浴を済ませる選択をしたらしい葵は、都古に申し訳なさそうな顔を向けつつも、着替えを持って浴室に逃げ込んでしまった。 今朝方も感じたが、葵は都古を意識し始めてくれているようだ。本人は明確に自覚をしていないようだし、対象は都古だけではない。それでも十分な進歩だ。 シャワーの音がうっすらと聞こえ出したことを確認し、都古はソファにいる京介へと近付いた。都古の存在を気にも留めずに携帯を弄る彼は、葵がいなくなって気を抜いたのか、隙だらけである。 「はぁ?何やってんの、お前」 いきなり彼の纏うタンクトップを捲ってやれば、相当驚いたようで焦った声と共に鋭い睨みが向けられた。 衣服はすぐに直されたが、鳩尾部分に浮かぶ紫色の痣はきちんと確認出来た。相当な力で殴られたことは一目で分かる。彼にこんな傷を負わせることが出来る相手。さっき少しだけ思い浮かべた人物を嫌でも連想してしまう。

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