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act.8月虹ワルツ<33>

* * * * * * まだ耳慣れない携帯のアラーム音と振動。うっすらと覚醒した意識の中で葵が一番に感じたのがそれだった。瞬きを繰り返して朝が訪れたことを知る。 温もりを探るように手を伸ばしてもそこには何もない。慌てて飛び起きようとするが、背後から巻きつく腕がそれを阻んだ。 「……みゃーちゃん」 葵をしっかりと抱き締めて眠る存在に気付き、孤独に襲われそうだった心はすぐに落ち着きをみせた。でも昨夜確かに目の前にいたはずの京介の姿がない事実は変わらない。 シーツの海から探り当てた携帯を確認すると、時刻は六時を少し過ぎたところだった。昨夜早く眠る代わりに、朝起きて勉強しようとしていたことを思い出す。 「起きる?」 「うん、ちょっとだけ勉強する。みゃーちゃんはまだ寝てて大丈夫だよ」 葵が動く気配を察して、都古までのそりと動き出した。でも瞼は随分重そうだ。葵が眠りを促すように頭を撫でてやると、すぐにまた寝息が聞こえ始めた。名残惜しいのか、葵のパジャマの裾を握ったままなのが可愛らしい。 今日は雨らしい。カーテンをめくって現れた空は、時刻の割に薄暗かった。目を凝らさなければ降っていると分からないぐらいの静かな雨。憂鬱というほどではないが、胸が苦しさを覚えた。 試験が終わったらこの部屋を出て行く。いずれは、と覚悟していたことだ。不満があるわけではない。生徒会の先輩たちと近い距離で過ごすことは楽しみでもある。けれど、こんな雨の日に一人で目覚めたり、そして眠りについたりすることが出来るのか。不意に不安が込み上げてくる。 パジャマのまま寝室を出ると、窓辺に座り込む幼馴染の姿が見えた。葵からは広い背中しか見えないけれど、開いた窓の外に流れて行く白い煙で、彼がまた煙草を吸っているのが分かる。 「おはよ、京ちゃん」 「おー」 声を掛けると、気だるげな返事が返される。でも決して冷たいわけではない。ちょいと動いた指先が、こちらに来いと呼んでいる。誘われるままに彼の隣に腰を下ろした。 「早いね。京ちゃんも勉強?」 「いや。なんか目冴えてさ」 昨夜は京介も葵と同じタイミングで布団に入ってくれた。いつも夜更かしをしている彼のことだから、リズムが狂ってしまったのかもしれない。 「お前さ、今日気を付けろよ」 「何に?」 「足、まだ治ってねぇんだから」 不意にもたらされた忠告の意味が分からなかったけれど、彼が視線で空を示したおかげで理解する。雨で滑りやすくなることを心配してくれているようだ。 「まぁ都古なら何があってもフォローすんだろうけどさ」 京介の言う通り、雨の日に限らず、葵がわずかに躓いただけでも都古はすぐに反応して体を支えてくれようとする。

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