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act.8月虹ワルツ<107>
ゆっくりと上らせた指がそれまでと違う感触の柔らかな皮膚を捕らえる。と同時に、爪の先がわずかに存在を主張している粒に行き当たった。そこをピンと下から上に弾くと、葵の体も跳ねる。
「や……ぁ、っ……きょ、ちゃ」
逃れようと寝返りを打とうとする葵を押しとどめる。そして更なる刺激を恐れる葵を宥めるため、弾く動きから先端をスッと掠める程度に撫でるものへと変化させた。それだけでも小さな突起は硬度を増し、口付けた首筋がじわりと汗ばんでく。
「そこ……だ、め」
葵は自由な手で京介を止めようとしてくるが、大した力もない上に弱い箇所を人質にとられている状態。ただパジャマ越しに手を重ねているだけに過ぎない。
「声抑えてたほうがいいんじゃねぇの?」
京介はただ一定の間隔で先端を撫でているだけ。強く摘むわけでもなく、触れるか触れないかギリギリのタッチで触れているに過ぎない。それなのに、葵の声はどんどん艶のあるものに変化していく。
こんな戯れ程度の愛撫で可愛く泣き出すこの体が、京介だけのものでなくなったことぐらい、とっくに分かっている。でもその現実を受け入れられるかは別問題だ。
「昨日都古にもここ、触られた?」
京介の言いつけ通り口元を押さえた葵は、言葉ではなく首を振って答えてくる。それは明らかな否定だった。照れ隠しで嘘をついている様子ではないが、にわかには信じられない。
「じゃあこっち?」
胸の突起を突いていた手を、今度は下へと滑らせていく。臍を過ぎる辺りで葵は逃げるように身悶えたけれど、ほとんど無意味に等しい。
侵入を拒むように結ばれたウエストのリボンの端を掴んで引っ張ると、葵は慌てて止めようとしてくる。だが、緩んだパジャマの中へと、京介が指先を滑り込ませるほうが一歩早かった。
すでに形を持った場所を下着越しに捕らえると、葵の背がクッと反る。
「そこ、触ってない、から」
こんな状況でも葵が懸命に声をひそめ続けるのは、都古の眠りを妨げないためだろう。都古を庇うような回答も、京介の神経を逆撫でた。
「じゃあ何、お前が都古を触っただけってこと?」
「……ん、印、付けただけ」
そんなわけがない。そう言い返したかったが、都古なら有り得るのかもしれないと思い直す。京介と違い、自分は葵を何よりも大切にしている。そんなポーズを取りたがる都古なら。
「あぁクソッ、それはそれですげぇムカつくわ」
こうして葵に触れずにはいられない京介を、都古は自分の行動で責め立ててくる。葵を生徒会フロアに移す話だって、彼は葵が望むならとすんなり受け入れてみせた。
あれほど葵にべったりと甘えて、我儘ばかりの猫だったくせに。
急速に自分が情けなくなった京介は、葵を一度強く抱きしめてからその体を解放した。
「京ちゃん?」
仰向けに転がると、葵が不安そうな顔で覗き込んできた。京介の怒りが都古や葵に向けられていると思ったのだろう。でも今一番腹が立つ存在は京介自身だ。
「頭冷やしてくる。先に寝てな」
京介は葵にそう言い残し、枕元に投げ出した煙草とライターを片手に寝室を出た。
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