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act.8月虹ワルツ<141>

「あいつどうする?誰かと交代させたほうがいいんじゃね?」 リレーの順番を相談しあっている風だった背後の生徒たちの話題は、仲間内の“足手まとい”に移り変わっていた。どうやら今日の練習で各々の実力を確かめ合ったらしいが、その人物は皆の期待に応えるような走りを見せられなかったようだ。 「おかしいなぁ、もっと速いと思ってたんだけど」 「学年で一番とか言ってなかった?」 「そう思ったんだけどな。でも烏山のことだから、本気出してないだけかも」 何の気なしに彼らの会話に耳を傾けていた爽は、よく知る人物の名前が不意に登場してぴたりと箸の動きを止める。 何事にも気だるそうにするあの都古がリレー選手の一員だったということにまず驚かされる。そしてどれほど葵に誘われても、遥の家に同行しなかった理由も理解した。練習に参加する予定だったからなのだろう。 でもあの時の都古は一言だってそんなことを口にしなかった。間違いなく故意に黙っていた気がする。だって彼は今、大怪我をしているはずだから。 「……マジで馬鹿なの?あの人」 肋骨が折れている可能性があると聞いた。そんな体で全力疾走など出来るはずもない。けれど、リレー仲間は皆、都古が怪我をしているなんて疑ってはいないようだ。想定よりも速くなかったという評価で済んでいる。どれほど無茶をしているのか。 都古が好きにやっていること。それは分かっているし、爽が気に掛けたところで無視をされる未来しか見えない。だから一度は気にせず食事を進めることにしたが、どうにも箸の進みが遅い。 「あぁ、もう」 あしらわれるのが分かっていて会いに行くなんて馬鹿げている。それでも気になって仕方ない。むしゃくしゃした気持ちを吐き出しながら席を立った爽は、中途半端に食事を残したトレイを返し、二年のフロアに足を運んだ。 都古が葵の部屋を拠点にしているのは知っている。でも家主の葵は遥の家に泊まりに行ってしまった。それに明日から新しい部屋に移る予定。引越しの準備を進めているのなら、都古は自分の部屋に戻っているだろう。そう予測を付けて彼の部屋に向かうと、ちょうどその扉からもう一人の住人、京介が出てくるのと鉢合わせになった。 「あ?こんなとこで何してんの?」 「西名先輩こそ。どこか出掛けるんすか?」 彼は寮内をうろつく際はスウェット姿が多い。でも今は少しダメージの入ったデニムを身につけている。靴も、登校する際に履いているものとは違うスニーカー。爽の予測は合っていたようで、彼は“バイト”と短く答えた。

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