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act.8月虹ワルツ<153>*

「……ふぁ、ンッ…ん……はる、かさん」 耳元で囁かれる甘い声。首筋をくすぐるミルクティーのような色をした髪。肩口を力なく掴んでくる小さな手。不規則に揺れる腰、その度に太腿に押し付けられる柔らかな双丘。そして全てを包むストロベリーの香り。 遥は自分が提案したことが拷問に近い仕打ちだということを、よく思い知らされていた。 勿論、葵にとってはいい作戦だっただろう。葵が羞恥心や恐怖を抱かないよう、遥は思いつく限りの配慮をしてやったのだから。 まずは部屋の明かりを落とし、ベッドサイドのランプだけが灯る空間を作ってやった。ハーフパンツと下着を脱ぐのも一人でさせたし、向かい合うように座るのだって葵に任せた。遥はその間ずっと目を瞑って待っていたから、葵も素直に指示に従えたのだろう。 遥が瞼を開いたのは、葵がタオルケットを全身にかぶってきつく抱きついてきた時。こうすれば葵の体が遥から見えることはない。これももちろん遥の指示だ。 それでも恥ずかしがる葵を少しずつ説得してなだめ、タオルケットの中に右手を引っ込ませ性器を握らせるところまでは、遥も平常心で見守ってやることが出来た。 口でされてばかりと言っていたが、手で触れられたこともあるらしい。その時のことを思い出して手を動かすよう葵に促してから、遥は心の中で後悔ばかりを浮かばせていた。 恐る恐る手を動かし始めた葵は、遥の想像以上に可愛く、そして淫らに化けてくれた。 「うぅ…ん…あッ、はるか、さっ」 「大丈夫。ちゃんとここに居る。怖くないよ」 時折縋りついて名を呼ばれるから、その度に遥はタオルケット越しに腰を撫でて快感に溺れるのを恐れる葵をなだめてやっている。 さりげなく頬や剥き出しの首筋に唇を触れさせることぐらいは勘弁してほしい。本能に従えば、今すぐベッドに押し倒していてもおかしくないのだから、むしろこの精神力を誰かに褒めてもらいたいところだ。 早いところ、葵が達してくれるのを期待するばかり。表情や声から察するに、そう時間はかからないと思うのだが。 「遥、さんッ…も、できない」 遥がもうすぐ終わる、なんて希望的観測を抱いた矢先に、不意に葵からストップ宣言が出てしまった。 なるべく葵の表情を見ないように、と気を付けていた遥も視線を合わせざるを得ない。葵を見やれば、目尻に溜まりきった涙が赤く上気した頬を伝って、それがいやに扇情的だった。 「どうした?ちゃんと出来てるよ」 タオルケットのせいで手元はおろか葵の全身を拝めないから、一体どんな風に自慰を行っているのか分からないが、表情を見ればきちんと快感を引き出せていることは分かる。 ずり落ちかけていた腰を自分のほうへと引き寄せ、ぽろぽろと流れる涙を唇で拭ってやると、葵はただ首を横に振ってもう一度“できない”とごねるのだった。

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