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act.8月虹ワルツ<156>*
「葵ちゃんの手の上から教えてあげる。そしたら恥ずかしくないよな?」
葵に直接触れなければまだ言い訳になる。遥はこの状況を打破するために、そんな妥協案を提示した。葵も長く体に熱がとどまったままでいい加減辛いのだろう。恥ずかしさよりも、解放してもらえることを、悩んだ末に選んでくれた。
遥は自身の右手をタオルケットの中に忍ばせて、羞恥に震える葵の手にしっかりと重ねる。その瞬間にまたぴゅくと先走りが溢れて滴ってきたが、それを指摘して苛めるつもりはない。
ただ滅茶苦茶に甘やかしてあげたいだけ。
「ここまで濡れてたら強く擦っても大丈夫。痛くないだろ?」
「…いたく、ッん…ない…あぁ、ん」
「良かった。それからもう少し速く動かそう。じゃないといつまでものぼりつめられないよ」
葵の手ごと刺激してやると、その嬌声は今までとは全く異なる色を含むようになった。さっきまでの声も十分に淫靡だったけれど、今は自分の意思で調節出来ない分、上擦った声に焦りが滲んでいる。
「もう何にも考えなくていいよ。いっぱい気持ち良くなっていいから」
「はぁッ…やぁ…はる、さんッ」
「可愛いよ、葵ちゃん」
遥の手を濡らす迸りの量も増えて、よりスムーズに動けるようになった。葵の手はもうすっかり力を失って、ただ性器と遥の手に挟まれているだけの状態。
葵は役立たずの自分の右手を抜き去ろうとしたのだけれど、直接葵に手を触れないと決めている以上、遥はそれを許さなかった。当然のように、濡れそぼる先端にも触れない。そこを弄ってやればより快感を引き出してやれるのは分かっていたけれど。
「あッ…ん、んん……あぁぁッ!」
ぴくんと手の中のものが震えたかと思うと、葵の体も連動して震え、そして甘い叫び声が室内に響いた。
手を伝うどろりとした感触に、ようやく葵が熱を放出できたのだと知って遥はともかく安堵の溜め息をつく。これ以上生殺し状態ではどうにかなってしまいそうだった。
くたりと力の抜けた葵をベッドに横たえて、遥は濡れた己の右手をぺろりと舐め上げた。
──だいぶ凶悪だな、これ。
意識は飛ばしてこそいないものの、とろんとした顔で惚ける葵を見つめながら、遥は思わず心の中で呟いてしまう。もう少し時間が掛かったら本当に危なかったかもしれない。
目に毒でしかない体をタオルケットで覆い、汗ばんだ額を拭ってやると、葵の焦点が少しずつ遥に合ってくる。
「次から一人で出来そう?」
さっきの様子を見る限り、葵には難しいだろう。本来は自分の手で快感を学んでいくところを、人の手や口で一方的に育てられてしまったのだから。それでも尋ねずにはいられなかった。少しずつでも葵に真っ当な知識と経験を身に付けさせないと、危なっかしくて仕方ない。
「自信なくてもちゃんと練習しな。出来るようになるから。一人部屋になるんだし、やりやすいだろ」
力なく首を横に振った葵に、遥はこれからの環境が練習にちょうどいいのだと言い聞かせた。悪夢を見がちな葵を一人で寝かせないようにと、自分たちが添い寝し続けてきたことも原因の一つに思えてきたからだ。
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