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act.8月虹ワルツ<190>
「なぁ祐生さん。怒ってんのは京介だけちゃうって分かってる?」
「……京介をからかったから?」
「そんな友達思いちゃうわ」
友人の恋愛事情に首を突っ込まれただけで、わざわざ乗り込むほどお人好しではない。
「詮索したらアカン領域に踏み込んだ」
「ちょっと顔見に行くのもダメだった?」
「当たり前やろ。あの場で見聞きしたこと全部忘れろ、ゆーたやん」
わざわざ釘を刺さなくてもそのぐらい暗黙の了解で通る。でも祐生が興味を持つことが分かっていたからはっきりと言い付けたのだ。それも結局は無意味に終わったのだけれど。
今この瞬間完全に忘れた、なんておどけてみせる祐生には、何を言っても仕方がないのかもしれない。あの夜、余裕がなかったとはいえ相談相手として祐生を頼った幸樹の判断ミスだ。
「京介、本気で辞めるって言ってる?反省してたって伝えてよ」
「どう考えても反省してるように見えへんのやけど」
本当に自分の行いを悔いているなら、仲を取り持ってほしいなんて図々しい発言は出てこないだろう。それも煙草を咥えながら。
「一応デートの邪魔したお詫びの品は用意したんだけど」
「どうせロクなもんちゃうやろ」
その予想通り、カウンターに並べられたのは所謂夜の遊びに使うアイテムだった。
「あの二人、まだセックスしてないんじゃないのかなって思ってさ」
「なんでそう思うん?」
「日曜の朝から映画観に行ってる時点でね。普通日曜ってヤリ疲れて起きれなくない?そもそも外で待ち合わせてるなら昨日一緒に寝なかったってことでしょ」
祐生らしい無茶苦茶な理論だが、おそらく二人が醸し出す雰囲気もその予測を後押ししたのだろう。事実だと告げるのは簡単だが、葵との関係を晒したと分かれば、今度は幸樹が怒りの矛先を向けられるに違いない。
「これぜーんぶ没収な」
ホットローションや、ローターの類を渡されて一層怒る京介も想像出来るが、妙なスイッチが入ってしまうことも考えられる。京介が思いを寄せる相手に恋したことへの罪悪感は消えそうにないが、だからといってみすみす葵を抱かせたくはない。
「じゃあ幸樹くんへの献上物ってことで。他にも欲しいものあれば何でも仕入れるから」
やはりこの男は全く反省していないようだ。広げた道具を回収し、いそいそと紙袋に詰め込む姿は楽しげに見える。
「あ、これ。初心者の子にはオススメだよ。これが一番小さいサイズで、MとLも入れておいたから、徐々に拡張してってあげるといいよ」
祐生はプラグの入ったパッケージを手に取ると、わざわざ商品の説明をしてくる。
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