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act.8月虹ワルツ<194>*
「温室であんなに仲良くしたのに」
それが問題なのだ。あの時のことを思い出させるように耳元で囁かれ、葵は心の中でそっと言い返す。
ひょんなことから京介や都古に温室での出来事がバレてしまった。幸樹とキスをしたと伝えただけで不機嫌になった二人のことだ。このタイミングで一緒にお風呂に入ったなんて知られてしまったら、絶対に叱られる。
「前もいっぱい泡つけてお尻洗ったの、忘れちゃった?」
そういえばそんなこともあった。歓迎会でのことだ。
でもあれは一緒に入ったというより、彼の手で洗われたというほうが正しい。一人になるのが心細くて引き留めたのは葵だけれど、あんなに恥ずかしい思いをさせられる覚悟なんて出来ていなかった。
「このあいだぬるぬるしたので可愛がったここも、優しく洗ったるよ?」
「あっ、だめ……触っちゃ」
ウエストの位置にいたはずの手がいつのまにか上にのぼり、胸元をまさぐり始めた。ぬるついたジェルのようなものが塗られ、摘まれ、押し潰された記憶が蘇ってきてしまう。思わず体を震わせれば、幸樹が楽しげに笑うのが分かる。
「かわええな、思い出しただけでツンツンしちゃったんや」
「ん、待って……あぁ……んッ」
シャツの上から緩く肌をなぞっていた指が、明確に狙いを定める動きに変わる。布越しにキュッと摘まれると、意図しない声が上がった。
身を捩って逃げようとしても、左右の突起を摘む指に力が込められるだけでロクな抵抗が出来なくなる。
「泡つけておっぱいいじられたことある?」
幸樹の問いに首を振りかけたが、京介と共に泡風呂に入ったことを思い出す。それに最近はすっかり大人しくしているけれど、都古も以前は互いの体を洗い合う時に隙を見てよく悪戯を仕掛けてきた。
でもそれを認めたらますます断りづらくなる。改めて否定するために首を振ってみるが、もう遅かったらしい。
「あるんや。ほな、お兄さんにもさせて。泡で遊んだ後は、シャワーで丁寧に流したる。その刺激も、藤沢ちゃんには堪らんかもしれんな」
「ん……っ、あっ、あっ……止め、て」
水飛沫が当たる様を連想させるように、指の動きが先端をトンと叩くものに変わる。普段シャワーを浴びる時には何の感情も湧かないというのに、触れられるたびに腰のあたりにズクズクと熱が溜まっていく感覚に陥る。
これ以上触れられたらまずいことになるぐらいは学習した。妙な声を抑えるために口元に当てていた手で、遊び続ける幸樹の手を掴む。
「やぁ……も、だめっ、先輩」
「そのあとはどうしよっか。綺麗に洗えたか、舐めて確認してみる?」
葵の抵抗など幸樹にとっては些細なものなのだろう。弄られ続けて尖っていく粒を再び摘んで、さらに葵を恥ずかしがらせる台詞を囁いてくる。耳を唇で啄むおまけ付きで。
形を確かめるように舌を這わせ、チュッと音と立てて耳たぶを啄まれる。幸樹が触れているのは耳のはずなのに、彼の言葉によって違う部位に与えられることを自然と思い描いてしまう。
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