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act.8月虹ワルツ<197>
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カーテンなど取り付けられていない窓から差し込む月明かり。光の元を辿るように視線を上げれば、薄く広がる雲の隙間から月が顔を覗かせる。普段はこうしてじっくりと空を眺める機会はない。
ベッドサイドに手を伸ばして箱から一本の煙草を取り出すと、口に咥えて火を付ける。今夜この部屋を訪れてからすでに三本目。さすがにこれで暇を潰すのにも飽きた。
「ねぇ未里チャン。まだ挑戦する?」
若葉は足元に蹲るライトブラウンの髪を掴んで、強引に顔を引き上げさせた。同時に唾液にまみれた口元からは己のモノがずるりと零れ落ちる。テラテラと光ったそれは緩く芯は通っているものの、達するには程遠い状態なのは明らか。
長時間奉仕し続けた未里は荒い息を必死に整えながら、怯えた顔でこちらを見上げてきた。
今夜はただ金を奪ったり、欲を発散させたりするものだけではない。若葉が思いつきで提案したゲームを楽しんでいた。
「もしかして、ホントは奈央サマと遊びたくて手抜いてる?」
若葉が問うと、未里は首を横に振って否定した。その拍子に彼の額に滲んだ汗が飛ぶのが見える。
思いを寄せる奈央と引き合わせてやる。願ってもないはずの誘いを、未里はやはり断る意地を見せた。すでに好かれていないことは明らかなのに、奈央を巻き込みたくないと言っていい子で居たがるのだ。
だから若葉はこの遊びを提案した。口だけで若葉をイカせられたら奈央を巻き込まない。戸惑う様子は見せたが、自分の経験値には自信があったのだろう。実際若葉を高めさせたことも一度や二度ではない。未里は若葉の思った通り、こうして賭けに乗ってきた。
それに、負けたところで未里は美味しい思いが出来るだけだ。さして抵抗せずに一方的な提案を受け入れたのは、心のどこかでは彼の願いを叶えるものだったからだろう。
遊び慣れた未里との行為は手間がかからない。そのうえ金まで手に入る。だから気が向けばこうして呼び出しているだけで、そそる相手かと問われれば答えはノーだ。
快楽を引き出すツボは押さえていて巧いとは感じるが、こちらの気の持ちようでいくらでもコントロール出来てしまう。そもそも未里を相手に、負ける可能性がある勝負など挑むわけもない。
校門を通過してもうすぐ一時間が経つ。このあたりが遊びを切り上げる頃合いだろう。べたついたままでは多少の不快感はあるものの、若葉はくつろげた下着とボトムを整えた。
「奈央サマと何して遊びたい?」
若葉に搾取されている状況だというのに、未里の身体のほうがよほど興奮しているらしい。彼が纏ったハーフパンツの合わせ目が膨らんでいるのを見遣りながら、彼の望みを引き出してやる。
「でも未里チャン相手じゃおクスリないと勃たないかもネ」
奈央を守りたいと言い張っていたくせに、未里はそういった類の反論は一切せず、若葉の言葉で悔しそうに唇を噛んだ。奈央の好みではないなんてプライドが許さないようだ。
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