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act.8月虹ワルツ<205>

* * * * * * 派手に染めた髪とピアス、そして長身のおかげで自分が人目を引く容姿をしている自認はある。むしろ目立つためにこんな姿を選んでいた。だが入学して二ヶ月が経とうとしている。いい加減、同じキャンパスに通う生徒たちにとって見慣れた存在にはなっているようだ。 でも今日は久しぶりに好奇心のこもった視線があちこちから寄せられる。ただ歩いているだけで注目を集めているのは、間違いなく隣を歩く人物が原因だ。 「ここ、ゴシック様式のものが多いな。あっちにあった講堂も時計台もそうだった」 華やかな彫刻が施されたアーチは興味深そうに眺めるのに、周りから向けられる視線には全くもって無関心を貫いている。生まれ持った麗しい容姿との付き合い方をよく心得ている遥らしい。 キャンパスに着いたと急な連絡を寄越してきたのは、冬耶が二限の授業を受けている最中だった。冬耶の大学を見学したくなったらしい。 さすがに彼の気ままな訪問のために授業をサボる気にはなれず、昼休みまで適当に時間を潰すように伝えたのだが、彼は存分に構内の散歩を楽しんだ様子だ。 元々整った顔立ちをさらに引き立てるのは、肩口まで伸びた艶やかな髪。ここまで身長が伸びる前は、よく女性に間違えられていた。中性的な容姿のせいか、一見繊細でたおやかな性格にも思われがちだ。でも実際はそんな表現とは真逆だと感じることが多い。 「あ、西名くんだぁ」 「ねぇ一緒にいるの誰?」 遥を連れて食堂に向かうと、中央付近に座っていた女子学生のグループが冬耶を見つけて途端に色めき立つ。今日は隣に彼女たちにとって見覚えのない美青年が居るから尚更だろう。 同じ学科の友人が所属しているサークルの先輩。ただそれだけの間柄なのだが、いつしか冬耶の姿を確認すると親しげに声を掛けてくるようになった。飲み会にも熱心に誘ってくる。少々面倒な相手だった。 グループのうち二人の女性がわざわざ連れ立ってこちらまで近付いてくる。そして遥のことをストレートに探ってきたり、今週末に仲間内で行うというバーベキューに誘ってきたりした。いずれもやんわりと断りを入れて、すぐに食堂を後にする。 「どういう人たち?」 冬耶との関係性が分からないから黙っていたのだろう。食堂から離れた銀杏並木に辿り着いてようやく遥が口を開いた。冬耶が彼女たちとの関係を教えてやると、彼の顔が明らかに険しくなった。 「それならもっと上手く立ち回れよ。ああいうアプローチ放置しておくと、面倒なことになる」 「それは分かってるけど、必要以上に邪険にするのもな」 彼女たちは冬耶に危害を加えようとしているわけではない。それにどこに居ても目立つ冬耶を、マスコットのようなものとして認識しているような気もする。そのうち飽きて他の対象を見つけるに違いない。

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