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act.8月虹ワルツ<211>

* * * * * * 担任に名を呼ばれた生徒が一人ずつ教卓に向かい、試験結果が掲載されたカードを受け取る。ざわめきだすクラスメイトを横目に、聖は自分の順番が来る瞬間まで黙って耐え忍んだ。 生徒会役員として申し分ない成績だと判断されるには、総合順位が十位以内に入るのが安全だと奈央から教えられていた。だからそれが今回の目標だった。 「よくやったな」 自分のクラスの生徒が上位に入ったことは担任にとって嬉しいことらしい。カードを渡される際ニコニコと微笑みながら褒められて、聖は反応に困った。普段は可愛げのない生徒だという自認があるからだ。会釈だけを返して自席に戻ると、次に呼ばれた爽も同じように声を掛けられていた。 チラリとカードを覗き見ると、そこには“総合5位”と記載されていた。またむやみに周りを挑発しかねないからガッツポーズは小さく拳を握るだけに留める。 聖たちの数人後に呼ばれた小太郎は“もうちょっと頑張れ”なんてコメント貰って周囲を沸かせていた。成績優秀者以外に担任がそんな風に声を掛けたのは小太郎だけで、彼が教師にまで愛されているのだと実感させられる。 追試や補習対象者への案内が終わると、今度は明日から始まるオリエンテーションについての注意事項が伝えられる。楽しみにしている生徒が多いのだろう。途端に騒がしくなった生徒たちを宥めながら、担任が集合場所や時間、持ち物のおさらいを黒板に写していく。 先日配られたしおりと同様の内容だ。真剣に耳を傾ける必要はない。ホームルームが一秒でも早く終わることを願いながら頬杖をついていると、真後ろからツンと背中が突かれる。 「……どうだった?」 振り返ると不安そうな爽がこちらを見つめていた。無言でカードを渡せば、彼も自分のものを手渡してくる。結果は聖の一つ下の順位。二人で立てた目標は達成出来たが、聖には負けた。それが悔しかったのか、爽は浮かない顔で俯いてしまう。 こうなることは自己採点の段階からある程度予測出来ていた。それに聖が爽より少し良い成績をとることは毎回のことだった。だからこれほど落ち込まれるとどう声を掛けていいか分からない。 平常時より長かったホームルームがようやく終わったと同時に、すっかり準備のできた学生鞄を手に取る。 「爽、行こ?」 今日から生徒会の活動が再開する。この試験結果を持参して、補佐から役員への昇格相談を忍にするつもりだった。気持ちが盛り上がるように提案してみるが、頷きつつも相変わらず爽の表情は晴れない。 聖だって頑張った結果だ。良い成績をとってごめんなんて謝るつもりはないし、爽のプライドも許さないはずだ。かといって、このままあからさまに落ち込まれるとどうしたらいいか分からない。 大好きな葵に褒めてもらって元気を出させるしか解決法は思い浮かばなかった。

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