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act.8月虹ワルツ<233>

* * * * * * 昨日生徒会室に現れた百井波琉。その名前に聞き覚えがあった理由には、オリエンテーションの会場に着いて初めてのイベントを迎えた時に分かった。 一日目は山間に広がる高原のバーベキュー場で昼食をとることになっていた。そこで紹介されたのが波琉のグループだった。あちらも三人組で、波琉の他にいる二人にはあまり見覚えがない。 「……クラス違くね?なんで一緒なの?」 「俺らもあっちも人数少ないから、一緒にやろうかって話になった。先生にもちゃんと許可もらったよ。って言わなかったっけ?」 小太郎は事前に説明したと言うし、聞いた覚えがなくもない。でもそれがよりによって波琉のグループだとは。昨日のことを思うと気まずさは否めない。 「モモちゃん、バーベキュー得意そうだしね。頼りにしてます!」 「いや、何そのイメージ。ていうか作んのカレーだろ?」 誰とでも親しい印象のある小太郎だが、そのなかでも波琉とはそれなりに遠慮のないコミュニケーションをとれる間柄だということはすぐに分かる。小太郎は甘えるように波琉の背中に伸し掛かるし、波琉も迷惑そうにしながらもその腕を振り払いはしない。 「こん中で自炊の経験ある奴は?」 波琉は小太郎を引っ付けながら、全員の顔を見渡してくる。元々お坊ちゃん育ちばかりが集まっている上に、寮生活だって至れり尽くせり。爽だけでなく、その場にいた皆があるわけがないと言いたげに波琉を見つめ返す。 「じゃあ火起こしたことある奴」 「合宿でキャンプっぽいことはした」 「っぽいってなんだよ」 小太郎だけが反応を見せたが、それも頼りない回答だ。波琉は呆れたように肩を竦め、火の管理は自分がすると名乗り出た。そして残りの五人を材料の下ごしらえをする係、米を炊く係、調理器具や皿などの準備をする係とテキパキ割り振ってくる。 学年首位の成績を誇っていることといい、自然とグループの中心に収まることといい、見た目の印象を大きく裏切る性格をしているようだ。 波琉の言いなりになるのはなんとなく気に食わなかったが、ここで反抗することは爽にとってデメリットでしかない。聖も同じことを思ったのか、チラリと爽に視線を送ってきただけで場をかき乱すような発言はしなかった。 「なぁ、百井と仲良いの?」 野菜を切る係を任命された爽は、同じく包丁を握って横に並んだ小太郎に彼との関係を尋ねる。 「モモちゃんも中等部からの入学組だし、同じクラスだったから自然とつるんでたかな」 小太郎でさえ入学当初は内部進学生との隔たりを感じたと言っていた。だからこそ同じ境遇の同級生とは仲間意識のようなものが芽生えるのだろう。 誰とでも満遍なく仲のいい小太郎だが、裏を返せば特別に親しい相手がいないようにも見える。波琉とは一歩踏み込んだ関係のように思えるのはそのせいなのかもしれない。

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