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act.8月虹ワルツ<234>

「あいつ、なんであんな黒いの?」 「気になるならモモちゃんに直接聞けばいいじゃん。モモちゃーん!」 「ちょ、呼ぶなって、バカ」 本人に聞きづらいから小太郎に尋ねたというのに。小太郎のことはそこそこ空気の読める奴だと認識していた。だから波琉を呼んだのは意図的なものなのだと疑いたくなる。 「なんだよ、野菜も切れないのかコタロー」 「ちゃんとやってるって、ほら。火付いたんならこっちで喋ろってお誘い」 炭に向き合って額の汗を拭っていた波琉は、満更でもない様子で小太郎とじゃれ合いにやってくる。だが爽と目が合うと少し気まずそうに会釈してきた。 「ども」 「……っす」 微妙な挨拶を交わす二人を、小太郎が面白そうに眺めてくる。 昨日波琉が生徒会室に乗り込んできた話はまだ誰にも広まっていないようだ。あの場に役員しか居なかったのだから当然といえば当然だが、波琉本人が周りに何も言っていないのが不思議だった。小太郎もこの様子では全く聞かされていないのだろう。 「爽がさ、モモちゃんは何かスポーツでもやってるの?って」 促したはいいものの、爽から会話を弾ませることは出来ないと判断したのだろう。小太郎は爽の質問を当たり障りのない言葉に置き換えて波琉にぶつけてみせる。 「あぁ、サーフィン。毎週海入ってるから焼けてんの」 きっと嫌と言うほど尋ねられているのだろう。肌の色が気になっての質問だと解釈して、波琉は自分の腕を見せながら説明してくる。言い慣れている感はあるが、億劫がる素振りは見られない。それどころか、好きなものの話が出来て嬉しいのか、彼の目が輝くのを感じる。 「もし周りで興味ありそうな奴いたら紹介して。サーフィン人口増やしたいから」 「……二人が仲良い理由分かった気がする」 小太郎は隙あらば野球の楽しさをプレゼンしているし、野球部への勧誘も怠らない。その姿勢が今の波琉と重なった。二人ともが何を言われているのか分からないと言いたげに首を傾げるか、その仕草すら似ているように思えた。 野菜を切る手つきがおぼつかないと言って、小太郎から包丁を取り上げた波琉はその場に居座り出した。 「爽は?野球は興味ないって言ってたけどサーフィンはどう?」 手持ち無沙汰になった小太郎が暇そうに作業台に頬杖をつきながら、三人での会話を続けようとしてくる。 「野球よりは興味ある。一人で出来るし。けど焼けんのが仕事的に無理だから」 「あーそっか、じゃあ野外スポーツ全般ダメなのか」 「絶対ダメってわけじゃないけど、日常的にやるのは避けたいって感じ。どんだけ日焼け止め塗ってても限度あるし」 室内以外の体育の授業を受けることすら、母親はいい顔をしない。メイクや加工である程度の誤魔化しは効くが、ブランドのイメージを損なわないよう、白い肌を維持してほしいらしい。

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