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act.8月虹ワルツ<244>
「そう?仲良くなったら皆いい奴って思わない?」
「初対面の印象悪かったら、仲良くなろうなんて考えないだろ」
「でもさ、話してみないと分かんないじゃん」
あっけらかんと言い放つ小太郎に惑わされる。彼が聖たちと親しくなろうとしているのも、その考えに基づくものなのだろう。人懐っこさゆえに友人が多いのだと思っていたけれど、フラットな目線を持っていることが一番の強みなのかもしれない。
葵の手引きで、こうして会話をするぐらいの仲にはなった。その結果、小太郎が聖たちをどう思ったのかが気になってくる。
「なぁ、さっきから何やってんの?」
小太郎と会話をしながらも、入浴後のルーティンは欠かさない。テーブルの上にポーチの中身を広げていると、小太郎が興味深そうに手元を覗き込んできた。旅行用の小さなボトルに詰め替えた化粧水や乳液を手に取り、しげしげと観察し始める。
聖は自分の顔や体が売り物になる仕事をしている。中学の修学旅行で同室になったクラスメイトには“女みたい”とか“気持ち悪い”なんてからかわれたけれど、聖自身は何ら恥じる行為ではないと思っている。だから小太郎にも堂々と伝えてやった。
「スキンケア」
「おぉ、かっけぇ」
「は?何が?」
一瞬馬鹿にされたのかと思ったが、こちらを見上げる小太郎の目はキラキラと輝いているように見える。
「俺もやってみたい!使わせて?」
「興味あるの?」
寮で見かける小太郎の私服はジャージやスウェットばかり。ファッションに関心がないのだから当然肌のメンテナンスなど乗り気になるとは思わなかった。最初は聖に歩み寄るために言っているのだけだと感じたが、乾燥を気にしているのは本当らしい。
「顔洗ったあとカピカピすんのが嫌でさ。一回ドラッグストア行ってみたんだけど、種類多すぎてよく分かんなくて諦めたんだよね」
こんな反応を見せられるのは初めてだった。素直に教えて欲しいと乞われれば悪い気はしない。高いんだから大事に使え、なんて憎まれ口は叩いてしまったけれど、気が付いたら歓迎会中試させてやる約束を結んでいた。
「何やってんの?」
浴室から出てきた爽が、ボトルを囲んでいる二人を見て訝しげに声を掛けてくる。“スキンケアのレクチャー中”と回答してやれば、ますます困惑した顔つきになった。
「髪も固形石鹸で洗ってるらしい」
「マジで?だからパサついてんのか」
小太郎から引き出した情報を伝えると、爽は信じられないと言いたげに眉をひそめながら彼の髪に手を伸ばす。茶色に染められた髪は触れなくても傷んでいるのが分かる。
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