1347 / 1636
act.8月虹ワルツ<245>
聖たちが使っているシャンプーの使用許可も出してやれば、小太郎はすぐさま浴室に飛び込んで行った。しばらくして“いい匂い”と喜ぶ大声が聞こえてくる。鼻歌まで歌うご機嫌な反応に、思わず爽と顔を見合わせて笑ってしまった。
「ツルツルしてるんだけど!すげぇ、めちゃくちゃ感動してる」
「はい、これすぐ顔に掛けて」
嬉しそうに濡れた髪を触りながら現れた小太郎に、聖は化粧水のミストを渡す。顔全体に吹きかけさせると、その感触にも楽しそうにはしゃいでみせた。
爽と二人掛かりで手入れしてやった小太郎はいつもよりずっと毛並みも肌艶も良く仕上がった。
愛嬌の強さから子供っぽい印象を与える小太郎だが、こうして整えてやると悪くない容姿をしていると感じる。運動で鍛えた健康的な体に似合う服も選んでやれば、学園内では違った意味で注目を集める存在になりそうだ。
「おめでとう。野良犬から飼い犬に昇格」
「やったー!」
犬に例えられて気分を害すどころか、小太郎は無邪気に両手を上げて喜び出す。でも腕を天井に突き上げたまま、急に不安げな目を向けてきた。
「……これ、全部揃えたらいくらする?ていうか、一人でやれる気がしないんだけど」
確かに聖たちは必要経費としてそれなりのアイテムを使っている。いくら気に入ったとはいえ、小太郎が全てを揃えるのは無理があるだろうし、そこまでする必要は感じられない。
「まずその辺で売ってる化粧水使うところから始めたら?何もやらないよりは、安いのでも十分効果あるし」
「シャンプーも手頃な価格帯で気に入る匂いのやつ選んでみたらいいじゃん」
聖たちが早熟なだけで、普通はこのぐらいの年頃から少しずつ手を伸ばしてみるものなのだと思う。背伸びせずに挑戦してみればいいと告げれば、小太郎はホッとしたように笑顔を取り戻した。
「二人とも忙しいかもしんないけどさ、買いに行くの付き合ってよ。多分一人だと選べないから」
小太郎の頼みを受けて、即答は出来なかった。まずは爽の反応を探るために目線を合わせてしまう。爽も同じく聖を見つめてきた。どうするのかなんて言葉で確認せずとも分かり合える。
週末、小太郎の部活が終わったら三人で買い物に出掛ける。少し前なら想像も付かなかった約束が交わされた。
目的地は学園の最寄駅にある大型のドラッグストア。ただの買い出し程度の予定なのに小太郎は大袈裟なぐらい喜ぶ。その笑顔を見ていると面倒だなんてポーズは長くは保たなかった。
ともだちにシェアしよう!

