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act.8月虹ワルツ<256>

「あいつら、多分俺らのファン。やけにこっち見てくるからおかしいと思ったんだよな」 そう言いながら、聖は自分の携帯でSNSの画面を見せてきた。そこにはさっきまで居たレストランの写真と共に、聖たちが居たとはしゃぐ投稿がされている。彼女たちのうちの誰かのアカウントなのだろう。 聖も爽も外に出る時は特徴的な髪型や、目元を隠しているようだが、二人揃えば嫌でも目を引いてしまう。それに“一緒に写真を撮る”という昨日果たせなかった目的を達成するために、小太郎が店内で二人の帽子と眼鏡を外させてしまった。だから彼女たちに確信を与えてしまったのだろう。 「ごめん、俺のせいだ。え、どうしよう、あ、連絡先は消す。あとは何したらいい?」 顔の知れた友人と過ごすことなんて初めてで、全く配慮出来ていなかった。慌てて携帯を操作して登録されたばかりの女性たちの連絡先を削除するが、それではきっと足りないだろう。 「あいつらに情報垂れ流さなきゃ別にいいよ。今は居場所晒されてまずい状況じゃないし」 聖は何でもないことのように言ってのけるが、声を掛けてきた時は随分機嫌が悪かったように感じた。 “俺らのことをダシにして” 聖の中で真っ先にその可能性が浮かぶということは、過去に似たような経験があったのかもしれない。それなら小太郎を疑い、怒ってきたのも納得がいく。 小太郎には全くそんな気がなかったということがきちんと伝わっていればいいけれど。ふらりと立ち去ってしまった聖の背中を、小太郎は祈るような気持ちで見送った。 「あれ、女の子は?」 小太郎の気持ちとは裏腹にカラリと晴れた空のように明るい声音が響く。 「今その話したくないんだけど」 「なに、どうした?フラれた?」 背中に伸し掛かってきた声の主は、ニュッと顔を覗かせて笑いかけてくる。日に焼けていると女性に指摘された小太郎よりも更に色の黒い彼は中等部からの友人、波琉。どうやら噂は彼の耳にも届いてしまったらしい。それほど小太郎が女性と話していた光景が皆にとっては面白いものなのだろうか。 吹きガラスの体験に行ってしまった同グループの友人とは分かれて、波琉だけ単独でこの辺りをぶらついていたようだ。シーグラスを使ったものなら興味があったけど、と付け加えながら説明する波琉に、やはり彼は根っからの海好きなのだと感じる。 「なるほど、誤解がとけたか不安ってわけな。だからあんな顔して突っ立ってたのか」 近くのベンチに並んで座り、波琉に事の経緯を話すと、彼は思いのほか真剣に耳を傾けてくれた。ふざけた調子で声を掛けては来たが、きっと不安なまま佇む小太郎を見て見ぬふりは出来ずに声を掛けてくれたのだと知る。 「まぁ、大丈夫なんじゃない?絹川だってコタローがそんなことする性格じゃないことぐらい分かるだろ」 「そうだといいけど」 付き合いの長い友人に背中を押されると多少は安心出来るが、完全ではない。聖の中の地雷のようなものに触れてしまったような予感がしてどうにも不安なのだ。本人ともう一度会話してみるしかこの不安を解消する方法はないだろう。 それに小太郎を襲うのは聖に対しての不安だけではない。

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