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act.8月虹ワルツ<266>

* * * * * * 部屋の中心に置かれたテーブル。その上には無造作にトランプが散らばっている。負け続けて悔しがった小太郎が突っ伏すと同時に手札を放り投げたせいだ。 「もー、なんでそんなに強いんだよ」 「なんでって言われても、なぁ?」 満足げに笑って目配せしてくる聖は、やはり自分より少し性格が悪いと思う。でも爽だって聖と共に容赦無く小太郎を打ち負かしてきた。結局は似たもの同士。 「どうする?もうやめとく?」 「いや、せめて一勝ぐらいはしないと寝れない」 すぐにでも降参すると思われた小太郎は、案外諦めが悪いらしい。視線だけである程度の意思疎通がはかれてしまう双子相手に勝ち目がないとは薄々気づいているだろうに、こうして延長戦を希望されたのは今夜何度目か。 「次も“ダウト”にする?」 「や、俺はこれ向いてないって分かった。100%当てられるじゃん。顔に出てるんだろ?」 小太郎はようやく自分の弱みに気が付いたらしい。手札を場に出す時の表情ですぐに嘘かどうかが分かってしまう。おまけに爽たちの嘘を見抜くのがあまりにも下手で、ほとんど一方的な試合を繰り返すだけだった。 ババ抜きのようなゲームでもそう。自分の手札を眺める表情でどこにジョーカーがあるかまで察しがつくのだ。もっと大人数で遊べば小太郎にも勝ち目があるかもしれないが、このまま三人で勝負し続けても残念ながら状況は変わらないだろう。 二泊三日のイベントは始まってしまえばあっという間に終わりに近づく。明日は午前のプログラムをこなし、昼食と少しの自由時間を過ごせば帰路につく予定だ。 帰る前に羽目を外そうと、どの部屋も今日の自由時間中にお菓子を買い込んで夜更かしの計画を立てているようだ。小太郎も他のグループから遊びに来いと声を掛けられていたようだったが、こうして爽たちと過ごすことを選んだ。 小太郎を無視して早々に眠ることも考えたが、キラキラした笑顔でトランプを取り出されたら嫌だと突っぱねることは出来なかった。 「じゃあポーカーは?」 「やったことない。けどなんか嫌な予感はする。ギャンブルっしょ?」 聖の提案に、小太郎は身構える様子を見せる。散々小太郎を負かしてきた聖がにこやかに勧めてくるなんて、自分に不利なものに違いないと警戒するのは当然だろう。 「ギャンブルってことは“運”が絡んでるってことだから。勝つ確率は平等」 「……なるほど。じゃあ俺にも勝ち目があるってことか」 確かに配られたカードによって勝ちやすさは左右される。けれど、頭脳ゲームと言われるほど計算が必要なものだ。警戒したわりにあっさりと聖に言いくるめられるところは、彼の単純な気質を表している。 「ルール説明しといて。俺は飲み物買ってくる。ほら竹内、ジュース代」 散々負け越した小太郎には今夜の飲み物代を負担する役を担わせている。小太郎自身がはじめに言い出したことだ。本来なら買いに行く役目も小太郎にさせるのが筋だが、ルールを知らない小太郎とポーカーを始めるのには時間が掛かる。だから爽が代わってやることにしたのだ。 手を差し出せば、小太郎は素直に千円札を乗せてきた。悔しそうなポーズは取りつつも、こんなやりとりが出来ることを楽しんでいるように見えた。

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