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act.8月虹ワルツ<316>

「爽には回さないで。受けるなら俺がやるから」 「分かった。けど、三人で撮影するって案もあるみたいだよ。爽くんにも、聖くんみたいにやる気になってほしいって」 「で、セットで売り出したいんだろ?一卵性の双子なんて良いネタになるし」 つい強くなってしまう口調で言い返すと、江波は困ったように眉をひそめた。 母親のブランドが活動のメインだった自分たちは、世間一般ではまだまだ名の知れていない存在だ。これから仕事を増やすなら、双子であることを活かしたもののほうが獲得しやすいのは分かる。 それ自体に抵抗が全くないわけでもないが、爽と共に活動するのは純粋に心強いし、楽しくもある。ただ馨の件に関しては、聖が蒔いた種だ。爽を巻き込みたくはない。 「それじゃ、こういうのも嫌かな?」 江波は自分の携帯を操作すると、SNSの画面を見せてきた。そこには聖と爽二人の情報を発信するアカウントが映されていた。まだ非公開状態ではあるが、これから活動していくにあたって準備をしていたらしい。 「爽とは仲良いし、一緒が嫌ってわけじゃない。そこは勘違いしないで」 だからこのアカウントが動き出すことにも文句がないと伝えれば、江波はホッと息をつく。 「でも今の俺たちは仕事に対するスタンスが違うから。爽は近いうちに部活始めるだろうし」 「部活?どんな?」 「軽音部。多分ね」 怪我をする可能性や、どの程度スケジュールが埋まりそうかを探るために聞いたのだと思うが、教えてやると何故か彼の目が輝く。 「へぇ、そうなんだ。僕も昔楽器やってたんだよ。パートは何かな?」 「さぁ、そういうのは俺じゃなくて爽と話しなよ」 こちらは今馨のことが不安でどうしようもないというのに、思いもよらないところに食いつかれてペースを乱されるのは不愉快だ。 「それから、俺たちは二人とも生徒会入り目指してる。生徒会関連のことは優先したいって相談することはあると思う」 「生徒会?すごいね」 この世界に身を置く以上、仕事を優先しなければいけないのは分かっている。でもこの先もずっと葵の傍に居続ける手段を模索することも、聖にとっては何よりも大事なことだった。 リエにはそういった話を何も伝えていないから、江波も当然予測していなかったようだ。驚いた顔はしたものの、応援すると答えてくれた。学園ではまだ味方の少ない身。出会ったばかりとはいえ、こうしてはっきりと聖の後押しをすると断言する存在が出来たことは、素直に嬉しいとも感じてしまう。 「とりあえず、連絡先交換しておこうか」 江波がそう言って携帯を差し出してきたのに倣って、聖もポケットから自分の携帯を引っ張り出す。だが、パッと画面が明るくなった瞬間、己の配慮の足りなさを後悔した。 「聖くん、その子って……」 待ち受けにしていたのは誕生日に葵と共に撮った写真。普段学園生活をしている分には何も気にすることはなかったが、この流れで江波に見られるのは完全に失敗だ。 あの資料には葵の小さな頃の写真しか載っていなかったが、待ち受けの真ん中で微笑む存在と同一人物であることは誰が見たって明らかだろう。

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