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act.8月虹ワルツ<346>

「律、こいつは葵。もう粗方話は出回っているんだろう?」 「うん。忍くんの親戚の子なんでしょ?よろしくね、葵くん」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 にこりと微笑みかけられて、葵は軽くお辞儀を返した。だが、本当に仲良くしてくれそうな彼と今後顔を合わす時は忍の親戚という嘘を貫き通さなければならないという現実に、心苦しさを感じずにはいられなかった。 「でも北条の子にしては、随分系統が違うよね。こんなタイプじゃ、忍くんだけじゃなくて皆に可愛がられるでしょ。苦労しそうだね」 「え、どういう……?」 系統が違うと指摘を受けて葵は嘘がバレたのかとドキドキしたのだが、どうやら律が言いたいのはそういうことではないらしい。正直に聞き返せば、律は小さく噴き出した。 「そんなとこ。ね、忍くん」 「あぁ、恵美も大層気に入ってるよ」 「うわぁ、大変だ。じゃあちゃんと忍くんに守ってもらわないとね」 「指一本触れさせないよ」 「はは、ごちそうさま」 葵にとってはよく分からないやりとりを交わされて、忍、律、双方を順番に見やってみたが、二人からは意味深な笑みを送られただけ。話題が自分だということは分かってしまうのだから余計に気になって仕方がない。 今までの来客者や月島家の人たちとの会話と違って、忍と律は上辺だけのお付き合いといった雰囲気ではないようだ。同年代だからか、忍が心を許しているような気がする。だから忍が楽しければいいかと、葵にそう思わせるのだ。 「臣とは?仲良くやってるの?忍くんの好きなもの、なんでも横取りしたがるイメージだけど」 「だからあまりあいつの視界に入らないようガードしてるよ」 レアキャラとされている忍の弟、臣のことも律は呼び捨てにするほどよく知っているらしい。 「そういえばこのあいだ臣と会ったよ。髪がショッキングピンクになっててびっくりした」 葵が今身につけているウィッグは、派手な色に髪を染めた臣のために用意されたものだと聞いていたが、まさかその色がピンクとは思わなかった。恵美と忍は性別は違えど似た顔立ちをしているから、臣も当然忍と似ているイメージでいたのだ。 早速忍の顔でピンクの髪色を想像してみようとしたが、彼のきっちりした性格や身なりのせいで全く上手くいかなかった。 「そうか、元気にしてたか?」 「元気すぎるぐらい。って、最近会ってないの?臣は“シノちゃんに避けられてる”なんて言ってたけど、本当だったんだ」 「別に避けてるわけじゃない、家に帰るタイミングが合わなくてな」 忍が愛称で呼ばれていることも意外だった。律の口ぶりでは、臣は忍を慕っているらしい。それに律も兄の友人という関係を超えて、忍に親しみを感じているようだ。 学園では常に一目置かれる存在の忍がこうして年下から懐かれているところを見られたことも、今日の収穫といえるかもしれない。

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