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act.8月虹ワルツ<402>

「ちゃんと登校出来てたらもっと一緒に過ごせたのに。生徒会だってせっかく入ったのに、全然二人の役に立てなかった。その悔しい気持ち、思い出したんだ」 忍と櫻。葵が二人と親しくなったのは、生徒会入りを果たし、役員として必死に毎日を過ごしていた時だった。彼らとの出会いを振り返る中で、その時の感情まで呼び覚ましたのかもしれない。 葵を強引に招いたのは遥たち。そのせいで苦しめた自覚もある。葵が落ち込む必要など何もない。すぐさま否定してやりたくはなるが、遥はその先の葵の言葉を待った。 「だからね、今度は後悔しないように頑張らなくちゃって」 決意を示すように、遥に回った腕に力が込められるのが分かる。 葵は欠席日数を減らすことや、生徒会の活動により一層熱心に取り組むことを志すらしい。次に行われる体育祭でも、クラスの足を引っ張らないことが目標だという。やる気なのはいいが、そうしていつも無理をしてしまうのだから心配にもなる。 口を挟むべきか悩ましいが、いつまでも遥が世話を焼くよりも今葵の身近にいるメンバーにフォローさせたほうがいいだろう。だから頑張りすぎないよう助言するだけに留めておいた。葵は頷いてくれたけれど、きっと自分ではまだ上手にコントロール出来ないに違いない。 それに、葵は他にもまだ頑張りたいことがあると言った。今度は学園生活のことではない。宮岡とのカウンセリングについてだった。 「卒業しちゃう前に会長さんのこと名前で呼べるようになりたいから。会長さんでも、お兄ちゃんでもなく、名前で」 先日会話した際には忍自身に強い未練はなさそうに見えた。覚悟を決めたと表現したということは、葵に名を呼ばれなくとも構わないとすら思えているのだろう。でも葵は今日一日、忍と長い時間を過ごして改めて彼との壁になっているものを取り払いたいと感じたようだ。 「葵ちゃんの頑張りは応援する。でも焦るのは良くないよ。卒業したってこうして会えるんだし、お別れじゃないんだから」 忍の傍に居られるうちに。そう思う気持ちは分かるが、タイムリミットを設けることで生じる焦りは葵を追い詰めるだけになる予感がする。遥が諭しても、葵は視線を避けるように顔を伏せてしまった。色素の薄い睫毛が緩く震える様は、葵の動揺を表しているようだった。 でも葵は自分で考えた努力の方法を変えるつもりはないらしい。 「宮岡先生のところ、遥さんも一緒に来てほしいんだけど、ダメかな?」 協力を求められて断る理由はない。宮岡に紹介したいのだとも言われて、そういえばすでに宮岡と対面を果たしていることは葵に話していなかったことを思い出す。葵抜きで会った訳を適当に語るよりも、このまま初対面のフリを貫いたほうが良いだろう。 「それにね、思い出したい人がいて。多分お兄ちゃんと京ちゃんはその人のこと知ってる気がするから。覚えてるかは分からないけど」 「俺なら当時を知らないからってこと?」 普通なら逆のことを考えるはずだ。彼らからヒントを貰おうとしたっておかしくない。けれど葵はそうしたくないのだという。

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