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act.8月虹ワルツ<407>
* * * * * *
都古が横になるベッドへと引き摺り込まれるのはある種自然な流れだったと思う。葵もそれをどこかで望んでいたし、都古は初めからそのつもりだったのだ。リレーの話がなければ、もっと早くにこうなっていただろう。
シャツや浴衣の胸元が多少肌蹴たところで見えないような位置に唇を落とし、印を付けていく。その行為自体はもう何度目かになるのに、一向に慣れない。心臓が痛いほど音を立てて鼓動を繰り返し、熱に浮かされたように頬が赤くなっているのも見なくたって分かる。
「……もう、終わりでいい?」
三つ目の痕を付けた時にも聞いたこと。その時にもまだと言われ、もう二つ付けた今も都古は続きを促すように髪を撫でてくる。
「あと何個?」
「任せる」
そう言うわりにちっとも満足していない顔をするのだからずるい。未だに痛々しいほど変色した肌の周囲には葵が付けたばかりの薄紅い印がぽつぽつと浮かんでいる。
葵が以前体に付けられたものに比べれば随分薄いそれは、きっとまた数日で消えてしまうはず。そのたびにこうして口付けるなんて、とんでもない約束をしてしまったのだと今更ながらに思い知る。
嫌なわけではない。これがどうしてご褒美になるのかは分からないが、都古が喜ぶなら出来るだけ叶えたいとは思う。でも都古の腹に跨り、素肌に唇を触れさせるだけで、不思議なほど体が熱を帯びていくのだ。それが何の予兆かはさすがに学習し始めていた。
「みゃーちゃん、やっぱりもう」
泣き言を言うと、都古は小さく笑って葵の腕を引いてきた。バランスを崩した上体で都古を押し潰してしまわぬよう慌ててベッドに手をつこうとしたが、なぜか視界がぐるりと大きく反転する。
「あ、れ?」
「じゃあ俺の番、ね」
薄い唇が不敵に歪む。ほんの少し前、葵に縋ってきた時の弱々しい姿とは似ても似つかない。その表情だけで背筋がゾクリとさせられる。
覆い被さってきた都古は、その勢いとは裏腹にいつも通り許可を求めることは欠かさない。
「いい?アオ」
あともう少しで唇同士が触れる。その距離で囁かれ、拒絶など出来るわけもない。それに昨日中途半端に熱を持たされた体は間違いなく都古に触れられたがっていた。自分で熱を解放出来そうにないから、都古に助けてほしくて堪らないのだ。
恐る恐る頷けば、都古は嬉しそうに目を薄めてキスを落としてくれる。冷たいとさえ感じる唇が、何度も角度を変えて葵の唇を重なり温くなっていく。そのまま溶けてしまうのではないか。そんなことを考えてしまいたくなるほどに。
「…ん、ン……」
それ自体に意思を持っている生き物かのように自由に口の中の粘膜を舐め上げてくる都古の舌。そのたびに背筋に走る痺れが強くなっていく。このままではまずい。
「みゃ、ちゃん」
キスの合間に呻いた葵の唇を、宥めるように何度も啄んでくる。時折端から溢れる唾液をぺろりと舐め上げる仕草すら、葵を震わせた。
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