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act.8月虹ワルツ<408>*

「アオ、命令して」 葵が許可したのはあくまでキスまで。その先が欲しいならもっとねだれと、そういうことなのだろう。葵の膝を割って己の体をするりと捩じ込んできた動きの割に、都古はそれ以上の触れ合いをしてこない。 嫌がることはしたくない。怖がらせたくない。都古はそう言って葵の意思を確認したがるけれど、自分から求めるなんてどうしても恥ずかしい。体が何をされたがっているかを学習させられてしまったから尚更だ。 都古が焦れたようにシャツの第一ボタンを噛んでくる様すら、葵の目に涙を溜めさせる。有無を言わさず脱がされ、肌に触れられるのとはまた違った羞恥を葵に与えてくるのだ。 「……皺に、なっちゃうから」 葵が絞り出したのはまるで言い訳のような台詞。忍は葵の物にしていいと言ったけれど、高価なセットアップを素直に受け取るのは気が引けた。ひとまずクリーニングに出すつもりではあるが、ベッドの上に寝転がり続けるのは良くない。だから脱がなくては。そんな言い訳。 「脱ぐ?」 問われて頷くことしか出来なかった。 満足げに笑った都古は葵の背に腕を通して引き上げると、器用にジャケットを脱がせてくれる。そして葵をベッドに寝かせ直すと、さっき仕掛けたことをなぞらえるように、わざわざ唇でボタンを外してきた。上から一つ一つ外されるたび、露わになった肌に都古の吐息を感じる。 「シャツは、平気」 「……そう?」 三つほど開かれたところで恥ずかしさが極限に達して都古を引き止めると、彼はあっさりと顔を上げた。いつも葵の肌を露わにして舐めたがるのだからそれが少し意外だった。でもその理由はすぐに分かった。 悪戯っぽい笑みを浮かべた都古がシャツ越しに肌を啄んできたのだ。 「上からが、好き?」 「っあ、待って……それ、やッ」 滑らかな生地が葵の肌をくすぐってくる感触は、刺激に弱い部分をダイレクトに弄られるのとは違う。けれど、着実に下腹部へと熱を集めてくるのだ。 「今度、舐めるって、言ったのに」 胸元を執拗に啄んでくる都古が何を言いたいのかは分かる。京介と三人で過ごした夜のことだ。そこを指で摘みながら宣言されて、“今度ではなく今すぐ欲しい”という願いが溢れそうだったこともはっきりと覚えている。 その時の感情を思い出しただけで、都古の腰を挟む両膝が震えた。 「アオ?」 都古に促されて、乾いた喉が鳴る。葵の命令がなければ動かない従順な猫。それはただのポーズで、躾けられているのは葵のほうなのかもしれない。 「みゃ、ちゃん……分かんない」 「それじゃ、出来ない」 残念そうに都古の唇が刺激を求める箇所のすぐ傍に落ちる。分かっているはずなのに。意地悪しないでほしい。そんな言葉が溢れてしまいそうだ。

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