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act.8月虹ワルツ<410>*
「綺麗に、する?」
溢れ出る涙を拭うのに必死な葵に対し、都古はちっとも悪びれずにベルトに手を掛けながら尋ねてくる。どこをどうやって綺麗にするつもりかなんて、都古が好む行為を考えたら簡単に予想がついた。
「だめ……もう、終わり」
「でも、いい?このままで」
いつもは都古の我儘を宥めるのが葵の役目なのに。今はごねる葵のほうが間違っていて、都古がさも常識的なことを言っている風だ。葵の顔を隠す手の甲にキスを落としてくるのも、拗ねた葵を宥めているかのよう。
「アオ」
手を退けさせたいのだろう。都古の唇は甲だけでなく、首筋や耳元など葵の両手では隠しきれない部分の肌に落ちてくるようになった。
「キス、嫌?」
「そうじゃ、ないけど」
そう尋ねられると弱い。一ノ瀬の事件直後、都古からのスキンシップを反射的に拒み、彼を傷つけたことを思い出すからだ。
都古がまた泣きそうな顔をしているのではないか。少し不安になって顔を覗かせると、その僅かな隙を逃さずにあっという間に唇が重なった。
一度熱を解放したとはいえ、まだ身体中がふわふわとした感覚に包まれている。その状態で再びざらついた舌で上顎をなぞられ、舌同士を擦り合わされると堪らない痺れが突き抜けた。
解放されたかと思えば、再び角度を変えて貪られる。それを執拗に繰り返されると、今都古が何を求めていて、それを自分がなぜ拒んでいたかが定かでなくなってきた。
「は…んぁ……っみゃ、ちゃん」
「綺麗に、するだけ。ね?」
だから何度目かの息継ぎのあと、都古にこう問われて、葵は思わず頷いていた。
その判断を後悔できるぐらいまともな思考を取り戻したのは、半端に脱げていたシャツをのボタンを全て外され、ベルトを引き抜かれた後だった。
「あ、待って、やっぱり」
ジャケットと揃いの柄のハーフパンツのチャックを下ろされる音に、葵は慌てて都古を止めようと手を伸ばす。だがそれよりも下着ごと剥かれるほうが早かった。
先程放った粘液がキラキラと糸を引く光景が視界に入る。そうなると、今度はまた羞恥を和らげるために顔を隠すしかなくなってしまう。
足をジタバタさせても大した効果はなかった。むしろ都古の体をより深く割り込ませ、“ご褒美”の体勢を取りやすくさせたようだ。
「綺麗に、するだけ」
都古は言い聞かせるように同じ言葉を繰り返し、開いた葵の足の付け根に顔を埋めていく。高く括った彼の黒髪が内腿をくすぐったと思った瞬間、達したばかりで過敏になっている場所にフッと息が吹きかけられた。
だが今までとは比較にならないほどダイレクトな刺激を覚悟して体を強張らせても、その時はちっともやってこない。思わず都古を見つめれば、彼は葵の憧れる漆黒の双眸で葵を見据えた。
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