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act.8月虹ワルツ<413>*

「気持ち、いい?」 証拠とばかりに所在なさげに揺れる性器をツンと突きながら尋ねてくる。そこに葵を馬鹿にするような色はない。むしろ周りからは冷たいと評されがちな黒目は葵への慈しみに満ちていた。 都古はどんな葵でも好きだと言い切ってくれる。問い掛けに肯定を返したとて、葵を蔑むことはないに違いない。けれど、簡単に認められるわけもない。 「大丈夫、アオ」 さっきまでキスを与えていた箇所を今度は指の腹でゆるゆるとなぞりながら、都古は葵を安心させる言葉を紡ぐ。 「中も、する?」 「ッ、しな、い……や、だ」 「なんで?」 葵は決して間違っていることは言っていないと思う。それなのに、都古は葵の頬を伝う涙を拭いながら真っ直ぐに尋ね返してくる。 表面を唇で啄まれ、時折舌で窄まりを突かれるだけでも異常な事態だ。でも都古はその先まで侵略したいらしい。 都古が上書きしたがるのは一ノ瀬から施された行為の記憶。あの夜一ノ瀬にも執拗にそこを舐め上げられ、舌や指を捩じ込まれた。それだけでなく、得体の知れないものまで潜り込まされた覚えもうっすらと残っていた。 「も、平気、だから」 十分に痛みは癒えた。これ以上の気遣いはいらない。そう訴えても都古は引くどころか、ますます躍起になってくる。 「京介?」 「……え、なにが?」 「京介が、上書きした?」 西名家の書斎で京介と二人きりで過ごしたこと自体はどうしてか都古にバレてしまっていた。でも何をしたかまでは伝わっていない。そう思っていたのに、なぜか確信を持っている風に尋ねられる。 「それなら、尚更」 “上書きしなくちゃ” 耳元で低く囁いた都古は、流れるように葵の頬や首筋に口付けを落としていき、再び元いた場所に戻って行ってしまった。揺れる黒髪を掴もうとしても、間に合わなかった。 抱え直された両脚が先程よりも大きく開かされる。抵抗しようにも、見計らったように性器をキュッと握り込まれて体に力が入らない。 「や、あぁッ…ん……ッ」 割り込んできた舌の厚みに息が止まる。 くちゅ、と自分の後孔から響く卑猥な音を聞きたくなくて耳を塞ぐべきか、それとも舌がそこを穿るたびに溢れる声を抑えるために口を塞ぐべきか。分からなくて結局ただ紅い紐で括られた都古の黒髪に指を絡めることしか出来ない。 「ふ、あぁッ…んん──ッ……」 そう深くは入り込めないはずなのに、内壁をなぞる都古の舌はどこまでも侵入してきそうなほど器用だった。その恐怖に身を竦めれば、意識を逸らさせるように彼の指が中途半端に勃ちあがったままの性器に絡みつく。 それ以上はもう何も考えられなかった。自分が何に対して声を上げているかも分からない。ただ必死に都古の髪を掴んで、泣き声を上げ、肢体をわななかせ続ける。 もう一度絶頂に達しても、それで終わりではなかった。京介よりも細い指が中に入り込んだことまでは覚えているけれど、とろとろに蕩けきった意識ではまともに自身の状態を認識することなど不可能だった。

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