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act.8月虹ワルツ<425>
「てことは、櫻ちゃんもヤッてないの?」
「そうよ。ね、忍。さくちゃんも葵ちゃんのこと一生懸命に大事にして微笑ましかったわ」
「なんだぁ、櫻ちゃんがどんなエッチすんのか興味あったのに」
「私もそれは興味あるわ。葵ちゃんともつれ合うさくちゃんの姿はきっと絵になるもの」
この二人は人の真剣な恋をなんだと思っているのだろう。我が姉弟ながら呆れてしまう。答える気になれずに無視をすれば、恵美が勝手に答えて会話を進め、盛り上がり始めた。
「あ、ていうかそのアオイちゃんだっけ?その子の写真見せてよ」
しばらくリビングにふさわしくない猥談に花を咲かせていた二人だったが、臣がふと思い立って忍に声を掛けてきた。
葵が写る画像データならいくつか所持していた。丁寧にフォルダ分けまで済ませてあるのだから、携帯を開けばすぐに見せることは出来る。でも臣に見せたらロクでもないことが起こる予感しかしない。
「持っていない」
「じゃあ会いに行かせてよ」
「ダメだ」
「なんで!」
忍が検討することもせずに拒絶したことを受けて、臣は小さい子供のように床を踏み鳴らして不満を爆発させた。今まで散々ちょっかいをかけてきた恵美は、それを見ても何も言わずに黙っている。
彼女は自室に葵がジャケット写真になっているCDを所持していた。それを見せれば一時的に臣の気が済むのは分かっているだろうが、葵にとっては好ましくない過去であることも理解してくれている。だからさすがに臣をからかう材料として使わないようだ。
「そもそもアオイちゃんってどこの子?ホントにうちの親戚なわけじゃないでしょ?どこに行ったら会えるの?」
「そう聞かれて答えると思うか?」
後輩だと伝えたらきっと明日にでも臣は学園に乗り込んでくるだろう。葵への敵対心は薄れたようだが、忍と付き合えだのセックスしろだの迫られても困る。
「なんで会わせたくないの?」
「お前は俺のものを何でも欲しがるから。葵に手出しされたくない」
彼には忍のお下がりを好んで食べたがる妙な性癖がある。そもそも兄弟揃って本質的に節操がないのだが、それに加えて臣は忍が一度抱いた相手だとより一層興奮すると言っていた。聞いた時はさすがに弟とは距離を置いたほうがいいのではと本気で悩んだ。
忍の過去の相手からどんなセックスをしたのか聞き出し、それをなぞらえるのが楽しくて堪らないらしい。高校一年でここまで歪んだ性癖を抱えた彼がこの先どうなっていくのか、考えただけでも末恐ろしい。
今までの相手は忍にとって全て替えのきく存在だった。だから臣がその後に手を出したとて好きにさせてきたが、葵は違う。
「まだシノちゃんのものじゃないんでしょ?なら大丈夫」
臣は忍に似た顔でにこやかに笑いかけてくるが、その言い分を素直に受け取るなら忍のものになったあとは獲物になるということだろう。
「あ、それとも俺のタイプだから心配なの?」
「お前にタイプなんてあるのか?何でも食えるだろう?」
「それはそうだけど、出来れば美人とか可愛い子がいいよ?シノちゃんの周りの人だったら今んとこ櫻ちゃんの顔が一番好き」
臣は自分の美的感覚がおかしくはないと主張するためか、贅沢な理想を口にした。あの顔面レベルの人間には、そうそう出会えることはないだろう。
忍はもうとっくに見飽きてはいるし、性格を知っているから今更そんな対象になどなり得ないけれど。
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