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act.9極彩カメリア<2>
「それも成り行きで……でも楽しんでます」
「小太郎くんとはライバルの組だけど、応援してるね」
体育祭に前向きに取り組む小太郎の姿に、葵も素直なエールを送った。葵の組を率いる忍に聞かれたら怒られてしまうかもしれないが、勝敗よりも全員が悔いなく楽しめるイベントになるのが一番だと葵は思う。そうでなくては、こうして準備に勤しむ甲斐もない。
「あ、あの藤沢さん」
「ん?何?」
葵のエールに対して笑顔で頷いてくれた小太郎は、一度周囲を気にする素振りを見せたあと、肩から下げていた鞄を漁り出す。
「これ、好みかどうかは分かんないんですけど」
「おい竹内、先輩ナンパすんな」
小太郎が鞄から何かを取り出す前に、背後から腕が回ってきてそれを妨げた。振り返らずともそれが爽だとすぐに分かる。会議が終わるなり資料を生徒会室に戻しがてら戸締りをしに行ってくれていたのだが、あっという間に終わらせて戻ってきたようだ。
小太郎は途端に鞄を肩に掛け直し、何事もなかったかのように装い出した。爽に見つかったらまずいことだったのだろうか。
「藤沢さん、今日はもう解散でいいですか?」
小太郎の様子を気掛かりに思って声を掛けようとすると、その前に戸締りの方法を教わるため爽に連れ添っていた波琉に問われてしまう。
「あ、うん、お疲れ様。また明日ね、百井くん」
「よっしゃ、行こうぜコタロー」
どうやら波琉は小太郎と親しいらしい。葵が帰宅を許可すると、波琉は満面の笑みになり、気まずそうに佇む小太郎を引き連れて行こうとする。
「小太郎くん、いいの?さっきの……」
「全然大丈夫です、すみません、気にしないでください!」
小太郎は波琉の背中を追いながら笑顔で去ってしまった。どう考えても大丈夫ではないと思うのだけれど、次に言葉を掛けようとした時にはもう彼らの姿は見えなくなってしまっていた。
「竹内に何か言われてたんすか?」
「言われたっていうか」
葵に何かを渡そうとしていたのだとは思う。でもそれが何かの見当がつかない。それに小太郎の様子から察するに、爽には知られたくないことだったように感じた。だから葵はそれ以上この話題を掘り下げることなく、今日の会議での爽の振る舞いを感謝することにした。
「爽くん、ありがとね。隣に居てくれて助かった」
この学園で過ごす初めての体育祭のはず。それなのに爽は過去の資料にきちんと目を通していたのか、瀬戸に追及されて焦る葵のフォローをしてくれた。答えに困るたびに隣で参考になりそうな場所を探し、指で示して教えてくれたのだ。
「情けないなぁ。もっとしっかりしなくちゃいけないのに」
爽にもだが、初めて生徒会の活動に招いた波琉にもみっともない姿を見せたくはなかった。忍からの代理指名は急なものだったとはいえ、一年から役員をやっているのだから不慣れだと言い訳することは出来ない。
「あんな怖い顔して迫られたら誰でも焦りますって。俺は葵先輩の役に立てたなら嬉しいし、それがここに居る意味だから。もっと頼ってください」
優しい言葉と共に爽が背後から包むように抱き締めてくれる。
冬耶や遥が葵を信じて招いてくれた生徒会。卒業までその役目を全うするつもりではいた。でも忍の代わりに会議を回すことすらまともに出来なかった。自分が来年も役員を目指そうとするのは正しい選択なのか、自信はますますなくなっていく。
けれど、爽は葵を支えるために役員を目指すと言ってくれた。彼の兄である聖もそうだ。葵が今まで見てきた生徒会の先輩たちの姿とは少し違うけれど、爽の温もりを感じると、そんな形があってもいいのかもしれないと思えてくる。
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